野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

(かおる)(きみ)は妹のところへ通ってくださるだろうか。美しい中君(なかのきみ)をご覧になって私よりも中君がお気に召したのなら、結果的に私が願っていたとおりになる。問題は、今回の騒ぎで私たち姉妹から完全にご興味を失ってしまわれた場合だ。その上でもし、薫の君が昨夜あったことを匂宮(におうのみや)様にお話しになったら。薫の君からも匂宮様からもそっぽを向かれて、妹の将来はどうなってしまうだろう>
お胸がつぶれそうなほど大君(おおいぎみ)は苦しんで、
女房(にょうぼう)たちがよけいなお節介(せっかい)をするからだ>
とお(にく)みになる。

あれこれ思い悩んでいらっしゃると、薫の君からお手紙が届いた。
大君はとっさにうれしいと思ってしまわれる。
お手紙には一本の枝が()えられていた。
枝の片側の葉は紅葉(こうよう)しているけれど、もう片側はまだ緑のままの葉が並んでいる。
お手紙には、
「同じ枝でも色がはっきりと違いますね。どちらが私の恋心で()まった葉かお分かりになりますか」
とあった。

あれほど恨んでお帰りになったのに、お手紙はあっさりとしている。
恋文らしい華やかな雰囲気もないの。
<中君を恋人と見なしてお書きになってはいない。むしろ私への執着(しゅうちゃく)をお伝えになっているのでは。昨夜の中君とのことはなかったことになさるおつもりだ>
大君のお心はご心配でざわざわする。

女房(にょうぼう)たちがお返事を急かす。
<一晩をともに過ごした恋人からのお手紙なら中君がお返事をするべきだけれど、実際に男女の関係になっていないのに『お書きなさい』と言うのも変だ。しかし私が書くのも気が引ける>
さんざんお悩みになって、結局大君がお書きになった。
「あなた様の恋心は妹の方へ移ったということでございましょうか」
あくまでもそうであってほしいとお伝えになる。
こんな冷淡(れいたん)なお返事でも、美しいご筆跡(ひっせき)だと薫の君は思ってしまわれる。
やはり大君を完全にお嫌いになることはおできにならない。