野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

夜になったころ、(べん)(きみ)(かおる)(きみ)をご寝室にご案内した。
荒々(あらあら)しい風に戸ががたがたと鳴っている。
その音に足音や着物の音を(まぎ)らわせながら、弁の君は考える。
<この風音なら人が近づく気配(けはい)にお気づきにならないだろう。しかし中君(なかのきみ)がご一緒なのは都合が悪い。いつもおふたりでお休みなのに、今夜だけは別々にお休みくださいとは申し上げられなかった。薫の君はどちらが大君(おおいぎみ)かお分かりになるだろうから、問題はないはずだけれど>

ご姉妹のご寝室へ近づくと、うとうともなさっていなかった大君ははっとお気づきになる。
急いで起き上がると、(かべ)ぞいに置かれたついたての後ろへお隠れになった。
中君は何も知らずに眠っていらっしゃる。
<かわいそうだ。どうしようか、起こして一緒に隠れようか>
とお胸がつぶれるような気がなさるけれど、もうそこへ薫の君が入っていらっしゃったの。

ほのかな(あか)りのなかに、お着物の上着を脱いだくつろいだお姿が見える。
物慣れたお顔で中君のすぐそばまでお寄りになった。
<目を覚ましたらどれほど怖い思いをするだろう>
ついたての陰で震えながら見守っていらっしゃる。
<薫の君と結婚してはどうかとほんの少し話したときでさえ、『そんなことをおっしゃるなんてひどい』と言って泣きそうになっていた。私が妹を差し出すようなまねをしたと知ったら、中君はどれほど傷ついて(うら)むだろう>
とお苦しみになる。

<それもこれも、親に見捨てられた私たちの悲しい運命なのだ>
山寺へ行かれた日の父宮(ちちみや)様のお顔を思い出される。
ご姉妹を優しくなぐさめて、すぐに戻ってくるとおっしゃって出ていかれた。
それが昨日のことのように思われて、大君は恋しく悲しくお泣きになる。