野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

日が暮れていくというのに(かおる)(きみ)はまだ山荘(さんそう)にいらっしゃる。
<お泊まりになるおつもりだろうか>
うんざりなさる大君(おおいぎみ)のところへ、(べん)(きみ)が薫の君のご伝言を何度も伝えにくる。
「なぜ直接お話しくださらないのだと(おお)せです。ごもっともなご不満でございますよ」
くどくどとご忠告(ちゅうこく)申し上げるので、大君はもうお返事もなさらない。

<私はどう生きていけばよいのだろう。両親のどちらかでもいてくだされば、結婚するかどうかも、誰を婿(むこ)にするかも決めてくださっただろう。もしその結果うまくいかなかったとしても、世間によくあることとして見逃され、私自身が笑いものになりはしない。

ここの女房(にょうぼう)たちはみんな年を取っているから、自分の意見に自信たっぷりだ。薫の君ならば十分ふさわしい婿君(むこぎみ)だと申すけれど、本当にそうなのだろうか。女房の目線で勝手にそう判断しているだけで、父宮(ちちみや)様のおっしゃった『軽率(けいそつ)な結婚』になるのではないだろうか>

女房たちは大君を薫の君のところまで引っ張っていきそうな勢いで責めたてるけれど、大君はけっしてお動きにならない。
唯一(ゆいいつ)のご相談相手になりそうな中君は、まだ現実の男というものがお分かりになっていない。
大君がどうお話ししても、少女のように首をかしげていらっしゃるの。

<私は誰のためにこんなに悩んでいるのだろう。母にも娘にも姉にもなりきれない>
どのお立場で何をしてもうまくいかない気がして、お部屋の奥でじっとなさっている。
大君のお悩みなど無視して、女房たちは薫の君にお会わせするための準備をしていく。
「そのような地味なお着物ではいけませんでしょう」
と、大君を着替えさせようとまでする。

<誰もかれも私と薫の君を夫婦にするつもりらしい。女房たちが協力すれば、薫の君はいとも簡単に私をご自分のものになさるだろう。狭い山荘なのだからどこにも逃げ場はない>
できるだけ早く薫の君のご興味を中君にお移しせねばとお思いになる。