野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

外がだんだん明るくなっていき、鳥の()れがお庭から飛び立つ音がした。
早朝の(かね)がお寺からかすかに聞こえる。
「夜が明けきってからお帰ししては見苦しゅうございます。今のうちにご出発くださいませ」
と、大君(おおいぎみ)は苦しそうにお願いなさる。

「それでは訳ありな恋人の朝帰りに見えてしまいますよ。女房(にょうぼう)だって不自然に思うでしょう。あなたはさりげなくなさっていてください。そうすればふつうの夫婦らしく見えます。実際のところはいわゆるふつうの夫婦とは違うけれど、昨夜のように、ただ話し相手をしてくださればよいのです。それ以上のことは望みませんからご安心ください。
あなたにとって一番都合がよくなるようにと、そればかりを考えています。何のご同情もいただけないから(むな)しいけれど」

お帰りになる気配(けはい)がないので、大君はほとほとお困りになる。
「そういう夫婦でよろしければ、これからは(おお)せのとおりにいたしましょう。ですから今朝だけは私のお願いをお聞きくださいませ」
早く帰ってほしいというご態度をお変えにならないので、薫の君はお従いになるしかない。
「悲しいことだ。早朝の恋人との別れなどこれまで経験したことがないから、どうしたらよいものか」
とこぼされる。

(にわとり)が遠くで鳴いて朝を告げる。
「どこにいるのだろう。鶏の鳴き声にも、鳥が飛び立つ音や鐘の音にも、山里(やまざと)の早朝の寂しさを感じます」
と薫の君がおっしゃる。
「ここは人里(ひとざと)離れたところでございますから、鶏の声すらかすかに届くだけですのに、世間の面倒(めんどう)(ごと)だけは押し寄せてまいりますこと」
大君は皮肉(ひにく)でお返しになった。

薫の君はしぶしぶ昨夜のお部屋へ戻ると横におなりになった。
(そで)から大君の香りがして、まどろむこともおできにならない。
しばらくしてから仕方なくお帰りになった。