野いちご源氏物語 四七 総角(あげまき)

空を(おお)った厚い雲から雪が降りしきる日、(かおる)(きみ)は一日中ぼんやりなさって、気づけば夜になっていた。
世間では十二月の月は寒々(さむざむ)しいものとして嫌われている。
その月が華やかに輝いているのを、(すだれ)を巻き上げてご覧になる。
山寺(やまでら)(かね)の音がかすかに聞こえる。
<今日も終わっていく。あの月は大君(おおいぎみ)のいらっしゃるところに(しず)むのだろうか。私も追いかけていきたい。どうせこの世など(かり)の住まいで、長くいるところではないのだから>

風が激しいので窓を閉めさせなさる。
外では川の氷が月光に照らされてきらきらとしている。
<都の屋敷をどれほど立派に飾ったところで、とてもこの景色には(かな)わないだろう。大君が生きていてくださったらご一緒に(なが)めたかった>
何をご覧になっても大君を思い出される。

<あの雪の山に入れば死ねる薬が見つかるかもしれない。探しにいこうか。あるいは、今すぐ死んだら仏教の神髄(しんずい)を教えてやるという(おに)でも現れてくれないものか。それが知りたいからという口実(こうじつ)で堂々と死ねる>
仏教をそんなふうに利用しようだなんて、(ばち)()たりなお考えだこと。

女房(にょうぼう)たちを近くへお呼びになって、大君の思い出話などをおさせになる。
おっとりと落ち着いた薫の君のご様子に、若い女房はうっとりしている。
(べん)(きみ)は、
<大君はこの方とお幸せになられるはずだったのに>
(くや)しくて、つい申し上げる。

「ご病気が重くなられましたのは、やはり匂宮(におうのみや)様のことが原因と存じます。中君(なかのきみ)が思いがけないご結婚をなさいましたが、宮様の頼りないご愛情を大君は心配していらっしゃいました。妹君(いもうとぎみ)を世間の笑い者にはしたくない、しかしそんなふうに心配していることをご本人には知られたくないと、ただおひとりでお悩みになっていたのでございます。

そうしているうちにちょっとした果物さえ召し上がれなくなって、弱りに弱ってしまわれました。表面上はさりげなくお振舞いになっても、お心のなかではどこまでも思いつめてしまうご性格でいらっしゃいまいしたから。亡き父宮(ちちみや)様のご遺言(ゆいごん)(そむ)いてまでご結婚おさせしたのに、妹君をお気の毒な境遇(きょうぐう)にしてしまったとご自分を責めておられたのでしょう」
弁の君はさらに、大君が姉君らしく中君を(はげ)まされたお言葉などを思い出して話すものだから、誰もかれも泣いてしまう。