ロマンスに、キス




ある日の休み時間。


数学の授業が終わって教室に戻ると、私の席に、ぽん、と置かれた数学の教科書。


この学校は、1組~4組、5組~8組と成績ごとにクラスが分かれていて、古典・数学・英語はクラスごとに授業を受けるシステム。

だから、数学の時間はいつも別の子が私の席に座っている。



一応、教科書の裏表紙をめくって確認してみる。
やっぱり、4組の子の名前が書かれていた。


休み時間はまだ十分にある。
ここはさっと渡しに行こう。



廊下を歩くだけで、視線が集まる。
今日も“天使の柏谷一千華”は健在だ。
背筋を自然に伸ばし、口角だけを軽く上げて歩く。
振り向かなくても、周囲の視線が私に追随してくるのがわかる。



4組の教室に着くと、扉付近にいた男から声をかけられた。



「えっ、柏谷さんじゃんっ!どうしたの?」


「山田さん、いるかな?あたしの机に教科書置いていったみたいで」



そう言いながら、軽く教室の中を覗く。


すると――視線が止まった。


その男の2つ後ろの席。
頬杖をついて、横で楽しそうに話している女の子をちらっと見る。
眉間に皺を寄せ、だるそうに身を任せている佐野の姿。



――あ、佐野。このクラスなんだ。



思わず息をのむ。
こうして改めて見ると、存在感がある。黒いヘッドフォンは相変わらず首からぶら下がっていて、無造作だけど自然に目を引く。



「山田さんに渡しとくよ」



そう言われて、はっと我に返る。


――そうだ、教科書渡しにきたんだった。


少しだけ顔を強張らせて笑い、深呼吸。