別に、そういう経験だけじゃなくて、佐野と一緒にお弁当を食べたり、映画を見たり、写真を撮ったり、喧嘩したり、そういう普通のことだって、あたしだけじゃないんだって思うと、どうしても、胸がちくりと痛む。
あたしなんかよりも先に、同じ時間を、同じ瞬間を、誰かが経験している。
そう考えると、やるせなくて、少しだけ泣きたくなる気持ちがこみ上げる。
でも、佐野はたぶん、そんなあたしのことも、見透かしてるんだろう。
「顔も、名前も覚えてないレベルで、何したかなんて一々覚えてるわけねーし。今までのやつと、お前とじゃ、全然違う」
そう言われると、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
甘ったるいような、でもそうでもないような。
言葉の端々に、ただの慰めじゃない、“特別”が混ざっているのがわかる。
じゃあ、全然違うって、何がどう違うの。
どこが、どういう風に違うの。
佐野の顔を見上げながら、どうしても聞かずにいられない。
「佐野、あたしのこと、好き?」
「……なに?答えないといけないやつ?」
めんどくさそうに顔をしかめる佐野を、じっと見つめる。
だるそうに、でも確かに、うん、って、俯きながら呟いた。
そのつむじに向かって、声を抑えながら問いかける。



