「キス、して」
鼻水も出てきて、最高にかわいくなくて、最低だけど、できるだけかわいい顔で、上目遣いで、ねだる。
そんなの、佐野には効かないだろうけど。
「ここで?」
佐野は表情を変えずに言う。
人が多い道端、車も通る。
だけど、今がいい。
今、してほしい。
目を閉じると、自然に呼吸が止まるみたいで、心臓が耳まで届きそうになる。
唇が触れ合う瞬間、世界の音が全部消えて――
「こんなとこですんなよ」「ヒュー」なんて、冷やかしの声遠くで聞こえるけど、そんなのどうでもいい。
今、あたしの世界には佐野とあたしの、ふたりしかいない。
ロマンティックには程遠い、不格好で、少しぶっきらぼうなキスだけど、それでいい。
むしろ、そんなキスが、今のあたしには幸せで。
あたしは、そんなキスを佐野としていたい。



