ロマンスに、キス




一瞬で用事が終わってしまって「じゃ、帰るか」ってあっさりそういう佐野。

ちょっと寂しくない?なんて思いながらも、しょうがないよね、と言い聞かせる。


そんなあたしに気付いたのか、自分がそうしたかったからなのかわからないけど「あそこ入る?」と佐野が提案してきたのはカフェ。


「別にいいけど」なんてかわいくない返事をしてしまったけど、佐野は笑った。



頼むのはいつだってコーヒーだけで、この一杯を時間をかけて飲むの。

佐野、すぐ飲みきっちゃうから、たぶんカフェとか向いてないと思う。


でも、今日はゆっくり飲んでる。



「あれから、会ってない?あいつと」


「あいつって?」


「トラウマ相手」


「あぁ、宮原(みやはら)


「そんな名前だっけ」


「今、初めて言ったと思う」



佐野は、少し間を置いて、もう一度確認するように訊いてきた。



「そいつと、もう会ってない?」


「会ってないよ。ほんとに、たまたまだった」


「ふーん。もう、大丈夫なん?」



その言葉に、ちょっと驚いた。



「え?」


「いや、もしまた一人の時に会ったらどうすんだろと思って」



佐野は、カラカラと氷を混ぜる音を立てながら、さも無関心なふりをして言った。