いつもとは真逆の方向に揺られる電車。
降り立った先は、やけに明るくて、空気まできらきらしている百貨店だった。
エスカレーターを上がった先の化粧品フロアは、見渡す限り、女の子、女の人、女の子。甘い香りと、ツヤツヤした世界。
佐野はというと。
「……すげぇな、ここ」
げっそりした顔で、背も高いし、目立つから、完全に場違いな存在になっていた。
仕方ないから、あたしが前に出た。
「ほら、こっち」
佐野がお姉さんの予約した商品を受け取っている間、あたしは隣のブランドに並んだリップに目を奪われた。
新色。見覚えのない薄いピンク。肌なじみがよさそうで、つい手が伸びる。
テスターを手に取ろうとした、そのとき。
「いつも、こんな色つけてんの?」
もう商品を受け取ったらしい佐野が、薄めピンクのティントを手に取る。
「よくわかったね?」
「取れても、色ついたままだし。元の色が、こんなん」
「……それ、どういう意味」
「キスしたときの話」
はは、と軽く笑う佐野。
なにを、どこで、どんなテンションで言ってるの、この人。
一気に顔に熱が集まるのがわかる。
鏡を見なくても、絶対、真っ赤。
とんでもないことを、こんな公共の場で、しかも化粧品フロアのど真ん中で。
だれか、この男を黙らせてほしい。今すぐ。できれば、永遠に。



