「佐野?」
立ち止まったまま動かない佐野に、名前を呼ぶ。
返事はなくて、ほんの少しの沈黙が落ちた。
「……お前ってさ、なんでそんなことすんの?」
「え?」
「あのさ。なんでキスして、嫌がんねーの?」
「……きゅ、急に、なに?」
「急じゃねーよ、ずっと思ってた。でも、別にその理由がなんであろーが、今さら俺から離れるつもりなんて、微塵もねーし。お前にとっての俺が、たくさんの男の中で何番目だろーが、どーでもいいよ」
佐野はそう言い切って、少しだけ視線を逸らした。
「でもな」
佐野は腰に手を当てて、はーっと大きく息を吐いた。あたしにもはっきり聞こえるくらいの、深いため息。
それから、前髪を無造作にくしゃっとかき上げる。いつもより乱暴な仕草。
そして――
少しだけ、あたしを睨む。
「……そういうことされるとさ」
怒ってる。
でもそれだけじゃない。
困ってて、苛立ってて、
たぶん、どうしていいかわからなくて。



