俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

「入江さん」

「は、はい」

 再び確認される。

「今時間ありますか?」

 今度は唐突に予定を聞かれた。

 一体なんのつもりなのだろう。

 美波は危機感を覚えて慌てて口を開いた。

「このあと仕事が詰まっ――」

「――ていませんよね。もうすぐ昼休憩ですし、メシ、奢ります」

「……」

 一方的に話をまとめただけではない。

「一緒にお昼に行きませんか」ではなく、もう二人で行く前提で「奢る」と来た。

(まさか、私だって気付いた? でも、もう十年も前だし、私の声しか知らないはずだし、声なんて普通覚えてないだろうし……)

 美波はしばし言葉を失っていたものの、どうにか気を取り直し、なんとか断ろうと頭を捻った。

「悪いですし、部長に許可を取らなければならないので――」

「なるほど、許可か」

 翔が懐から社内用のスマホを取り出す。

「あの、高橋さん?」

 美波が首を傾げるのにも構わず、そのまま電話をかけ「もしもし」と口を開いた。

「三井部長ですか」

「……⁉」

「今入江さんから資料をいただきました。ありがとうございます。それで、せっかくなので彼女と昼食を取りたいんですが、今から休憩をもらうことは可能ですか。……はい。ええ。ありがとうございます」

「許可をもらいました」と言いつつ電話を切る。

「……」

 美波はもはや目を丸くすることしかできなかった。

(翔君ってこんなに俺様だった……?)

 翔は美波の心境を知ってか知らずか、あの不敵に見える笑みを浮かべた。

「せっかく天気がいいから外に行きましょう」