俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――マーケティング部オフィスは、社員のデスクと旧会議室が一体化し、アンバランスな横長の長方形になっている。

 改装でよりオープンに、より効率よくを追求させた結果こうなったらしい。確かに奥行きがあって開放感がある。

 デスクも椅子もまだ傷や汚れはなく、パソコンは一人に付き二台支給されていた。

 さすが、花形部署の一つであるだけあって、会社のオフィスへの力の入れようも違う。

 おしゃれなガラスのドアの横には電話機が設置されていた。オフィスが広過ぎるので、近くに人がいなかった場合、これで呼び出すことになっている。

 だが、今日はそんな必要もなかった。ある男性がすぐに美波に気付き、真っ直ぐにやって来たからだ。

 ――翔だった。

 マーケティング部オフィスでも一際目立っている。

 目を瞬かせる美波の前で立ち止まる。その間美波から一度も視線を外そうとしなかった。

「入江美波さん――でしたね」

 美波は息を呑んで翔を見上げた。

 食い入るような眼差しにたじろぐ。

(私、何か気に障ることをしたのかしら?)

 そう思いつつも仕事だけはしなければと、恐る恐るファイルを差し出した。

「は、はい……。あの、部長から資料を預かっております。こちらをどうそ。まだ内密なので、共有はしないでとのことです」

「……」

「サインが必要なので、右端にお願いします」

 翔は資料を受け取り、再び美波をじっと見つめた。