俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――それから数日後、マーケティング企画部門のミーティングに呼び出され、改めて翔を初めとする関係者らと顔合わせをすることになった。

「営業関係者のアイデアが採用されたのはこれが初めてなんだよ」

 企画部門の課長はしみじみと頷いた。課長に合わせて社員もうんうんと頷く。

「この仕事に慣れてくると、つい捻ったもの、尖った要素を入れたくなるんですけど、入江さんは一般の消費者に近い立ち位置にいるからですかね。ああー、こういう素直な女性の視点って今までなかったなって感心して」

「待て待て。高橋君の案も入江さんと被っているんだからな。女性目線ってわけじゃないと思うぞ」

「そうでした、高橋君、ごめんごめん。うん、でもやっぱりこのコンセプトはいいな。“人は一人でも歩いていける。でも、そんな時代だからこそ、君と一緒に同じ道を行きたい”」

 美波がまず驚いたのは、翔と自分のアイデアが被っていただけではない。コンセプトととして何気なく書いた一文が、ほとんど違っていなかったことだった。

 採用されたアイデアは翔に手伝われた書いたものではないので、本当に今回被ったのは偶然ということになる。

「高橋君、この”君“ってやっぱり恋人のこと?」

「俺はそうですね。入江さんは?」

 隣の席から声を掛けられ、美波の心臓がドキリと跳ねた。翔の切れ長の目がじっとこちらを見つめているのを感じる。

「私は……そうですね。限定しなかったつもりなんですけど、私もやっぱり好きな人って設定です」

 翔にいつか語ったささやかな夢――。

『知っていた? 翔君の病室からも海が見えるの。青灰色の静かな海……。あの海を翔君と一緒に見に行ってみたい。砂浜を歩いて、波の音を聞いて……』

 ――その時履くシューズをイメージした。そして、翔もお揃いの靴を履いていてくれたら嬉しいなと。

「この“君”は恋人に限定しないで、親子や友だちでもいいよな。ジュニアやキッズ向けにも展開できるし」

「あー、それいいですね」

 議論が進む中でも翔はまだ自分を見つめている。

(どうしてそんなに私を見るの?)

 心が落ち着かない。

 結局翔は話し合いの間中、美波から目を離そうとしなかった。