俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 思わず伏せていた顔を上げる。

「何よ、その顔。どうせ事務程度しかやっていないんでしょ。あんた一人抜けたくらいでどうってことないわよ」

「……そういう、問題じゃない」

 何ヶ月もこのプロジェクトに関わってきたし、二年後にリリースされるだろう新シリーズの商品をこの目で見てみたい。たとえ事務程度の仕事だとしても、何年もその仕事をやってきたというプライドもある。

「私、プロジェクトを辞退しないし、会社も辞めない」

「はあ? 何よ、あんた私の言うことを聞けないって言うの?」

「……」

 美波は真っ直ぐに茉莉を見据えた。

 姉に正面を切って反抗するのは初めてかもしれない。以前の怖くて頷くしかなかったが、胸の奥から込み上げてくる熱が、茉莉への恐怖をも焼き払ってしまっていた。

「な、何よその目」

 茉莉は目を瞬かせて一歩後ずさった。

「美波のくせに!」

「確かに私は高橋さんと姉さんの関係に何も言う権利はない」

 ぐっと腹に力を込めて宣言する。

「でも、仕事だけは絶対に譲れない。事務だって必要な仕事よ」

 脳裏に抜擢された際の三井からの激励、プロジェクトに関わる同僚たちの声が蘇る。

『君がよく気が付いて、きちんとした社員だからだよ。そんなこと当たり前だって思うだろう? それが、全然当たり前じゃないんだな。これができる社員は老若男女問わず意外にいない』

『私なんて細々したことが苦手だから、入江さんがいなかったら大変でしたよ』

 最後に、翔の一言を噛み締めた。

『でも、それがあんたのいいところなんだろうな』

「――姉さんに私の仕事を奪う資格はない」

 反撃されることなど予想もしていなかったのだろうか。茉莉は呆然と美波を見つめていたが、やがて我にかえってギリリと視線を鋭くした。

「……後悔することになるわよ」

「絶対にしない」

 すぐさまそう言い返すと、それ以上何も言えなくなったのだろうか。茉莉はフンと鼻を鳴らして身を翻した。