俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 心臓がショックで早鐘を打っている。

(やっぱりあの時の電話の相手は姉さんだったんだ……)

 翔にしなだれかかっていた茉莉を思い出す。あの後思いを打ち明け合ったのだろうか。

「あっ、そうそう。高橋さんとの関係は他の人には絶対に言わないでよね。プロジェクトが終わるまで秘密にしておこうって彼とも約束しているの。だってほら、お互い仕事で忖度しているなんて思われたら嫌でしょう?」

「私は、バラすなんてそんなこと……」

「……ほんと、あんたって鬱陶しいわ」

 茉莉の声が数トーン下がる。茉莉はツカツカと距離を縮めたか思うと、顔をぐぐっと至近距離にまで近付けてきた。

「ねえ、美波。”ナツ“ってあんたのことでしょ」

「……」

 ざっと自分の血の気が引く音を効いた気がした。

「高橋さん、ずっと”ナツ”って子を捜していたって言っていたわ。私と声がそっくりの女の子で、何も言わずに姿を消してしまった。でも、忘れられなくて十年も探し続けていたって」

 茉莉は
「そんなの、あんたしか考えられない。あんたの声、気持ち悪いくらい私にそっくりだものね」
、と言葉を続けた。

 美波は何か言わなければと口を開いたものの、頭が真っ白になって言葉がまったく出てこなかった。更にずしんと何かが伸し掛かった気がして顔を伏せる。

 茉莉は歌うように語り続ける。

「だからね、私がその”ナツ”よって言ってあげたの」

「……」

「ねえ、美波。高橋さんはあんたにも絶対に確認したはずよ。でも、私は”ナツ”じゃないって言ったんでしょう? 正解よ。高橋さんをがっかりさせなくてよかったじゃない。ちゃんと身の程を知っているってわかって安心したわ」

 そして、最後に
「高橋さんに二度と近付かないで」
、と警告した。

「一度……いいえ、二度も諦めたくせに未練がましい。あんたにあの人のそばにいる権利はないわよ」

 言葉の矢が次々と美波の心に突き刺さる。だが、反論できない。

 二度も諦めたくせに未練がましい――。

 しかし、続けされた要求は呑むわけにはいかなかった。

「あんた、プロジェクトから外れなさいよ。ううん、イダテンを辞めなさいよ。どうせそこそこの企業だからって、ミーハーで入っただけの会社でしょ」