「……あんたに関係ないでしょ」
茉莉は身を翻し、美波を見るなり眉を顰めた。
「前から気になっていたんだけど……あんた、どうして髪を伸ばしているの」
「どうしてって……」
美波は長年ボブにしていたのだが、この半年仕事で忙しくて美容院に行けていない。髪が伸びるのが早いのもあって、もう肩に届きそうになっている。それだけのことなのに、何が気に食わないのか。
茉莉は苛立たしげに吐き捨てた。
「あんたは髪を伸ばしちゃいけないっていったでしょう。私の真似をしないでよ」
その一言で思い出した。
(そうだった。私が髪を短くしていたのは、昔姉さんに言われたからだった……)
――あれはまだ小学生高学年の頃だったか。
それまでも美波はボブだったのだが、アイドルの長い髪に憧れて、自分も伸ばしたいと思うようになった。
ようやく肩まで届いた時には嬉しかった。母方の祖母に
『あらあら、お人形さんみたい。美波ちゃんは長い髪もよく似合うね』
、と褒められて有頂天だった。
ところが、ある日自室で勉強をしていると、ドアが開けられる音がして、振り返ってぎょっとした。ハサミを持った茉莉が立っていたからだ。無表情だったので尚更何事かと思った。
『姉さん、どうし――』
茉莉はツカツカと部屋を横切ったかと思うと、不意に美波の括った髪を鷲掴みにした。
『い、痛っ』
そして、引っ張られた痛みに悲鳴を上げ、目を見開く美波に構わず、ざっくりとハサミでその髪を切り落としたのだ。
一瞬、何をされたのかわからなかった。髪の束がバサリと音を立てて落ちたところで我に返り、呆然とまだハサミを握ったままの茉莉を見つめた。
『ね、姉さん……ど、どうして……』
それ以上言葉が出てこなかった。
茉莉はギロリと美波を睨め付けた。
『私の真似、しないでよね』
美波は茉莉を真似た覚えなどない。偶然憧れのアイドルの髪型が茉莉に似ていただけだ。だから、わけがわからず戸惑うばかりだった。
それ以上に、何も悪くないのに暴力を振るわれた恐怖と、せっかく伸びた髪を切り落とされたショックで体が動かない。
『いい? 二度と伸ばさないって約束しなさい』
『……っ』
茉莉の手の中でハサミがキラリと光る。刃物を持った姉相手に逆らうことなど考えられず、ひたすらコクコクと頷くしかなかった。
茉莉はようやく満足したのか、
『お母さんに言い付けても無駄よ。どうせあんたのことなんてどうでもいいんだから』
、と吐き捨てて部屋を出ていった。
茉莉は身を翻し、美波を見るなり眉を顰めた。
「前から気になっていたんだけど……あんた、どうして髪を伸ばしているの」
「どうしてって……」
美波は長年ボブにしていたのだが、この半年仕事で忙しくて美容院に行けていない。髪が伸びるのが早いのもあって、もう肩に届きそうになっている。それだけのことなのに、何が気に食わないのか。
茉莉は苛立たしげに吐き捨てた。
「あんたは髪を伸ばしちゃいけないっていったでしょう。私の真似をしないでよ」
その一言で思い出した。
(そうだった。私が髪を短くしていたのは、昔姉さんに言われたからだった……)
――あれはまだ小学生高学年の頃だったか。
それまでも美波はボブだったのだが、アイドルの長い髪に憧れて、自分も伸ばしたいと思うようになった。
ようやく肩まで届いた時には嬉しかった。母方の祖母に
『あらあら、お人形さんみたい。美波ちゃんは長い髪もよく似合うね』
、と褒められて有頂天だった。
ところが、ある日自室で勉強をしていると、ドアが開けられる音がして、振り返ってぎょっとした。ハサミを持った茉莉が立っていたからだ。無表情だったので尚更何事かと思った。
『姉さん、どうし――』
茉莉はツカツカと部屋を横切ったかと思うと、不意に美波の括った髪を鷲掴みにした。
『い、痛っ』
そして、引っ張られた痛みに悲鳴を上げ、目を見開く美波に構わず、ざっくりとハサミでその髪を切り落としたのだ。
一瞬、何をされたのかわからなかった。髪の束がバサリと音を立てて落ちたところで我に返り、呆然とまだハサミを握ったままの茉莉を見つめた。
『ね、姉さん……ど、どうして……』
それ以上言葉が出てこなかった。
茉莉はギロリと美波を睨め付けた。
『私の真似、しないでよね』
美波は茉莉を真似た覚えなどない。偶然憧れのアイドルの髪型が茉莉に似ていただけだ。だから、わけがわからず戸惑うばかりだった。
それ以上に、何も悪くないのに暴力を振るわれた恐怖と、せっかく伸びた髪を切り落とされたショックで体が動かない。
『いい? 二度と伸ばさないって約束しなさい』
『……っ』
茉莉の手の中でハサミがキラリと光る。刃物を持った姉相手に逆らうことなど考えられず、ひたすらコクコクと頷くしかなかった。
茉莉はようやく満足したのか、
『お母さんに言い付けても無駄よ。どうせあんたのことなんてどうでもいいんだから』
、と吐き捨てて部屋を出ていった。

