俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――祖母の通夜はつつがなく終わり、美波はその夜薫、緑、その他何人かの親族とともに、メモリアルホール敷地内のホテルに泊まった。

 朝が訪れるのとともに、告別式の準備に取りかかったのだが、八時になっても九時になっても茉莉が来ない。

「朝一番に手伝いに来るって言っていたんだけど……」

 告別式開始時刻の五分前になっても姿を見せないので、さすがに薫が心配して電話をかけたが、出なかったようだ。美波がやっても同じだった。

「まさか、何かあったんじゃ……」

 心配になって警察に連絡を――というところまで来て、ようやく喪服姿の茉莉が姿を表した。

「茉莉ちゃん、心配していたのよ。ほら、早く親族席に来て」

「ごめんなさい。電車が人身事故で遅れちゃって」

 その頃にはもう参列者もほとんどが席に着き、僧侶が読経を始めようとしていた。

 茉莉の席は緑の隣だった。

 ところが、緑の顔を確認するなり、腰を下ろすのを躊躇する。だが、他に席がないと察したようで、小さく溜め息を吐いて腰を下ろした。

 美波は首を傾げた。

(姉さん、どうしたのかしら)

 茉莉は母とは仲がよかったはずだ。ところが、気まずそうな雰囲気が漂っている。

 しかし、間もなく読経と焼香が始まり、「美波ちゃん、次あなたよ」と薫に声をかけられたので、意識がそちらに行ってしまった。

 ――こうして告別式も無事終了し、ホール内の会席料理店で、精進落としの席が設けられた。

 ところが、茉莉がどこにもいない。

「伯母さん、姉さんは?」

「それがどこにもいなくて……」

 二人で廊下に出て茉莉を捜していると、メモリアルホールのスタッフに、「申し訳ございません」と呼び止められた。

「つい先ほど入江茉莉様より伝言を預かりまして……。お仕事で忙しいので一足先に帰宅されるとのことです」

「えっ、そうなの。仕事なら仕方ないわね」

「姉さん、引き出物は持って帰りましたか」

「いいえ。持っていたのは小さなハンドバッグだけでしたね」

「伯母さん、私が持って行きます。今なら追いかければ間に合いそうですから」

「じゃあ、お願いするわね」

 美波は引き出物の紙袋を手に、メモリアルホールを飛び出た。

 最寄り駅に向かう道に目を向け、すぐに喪服姿の茉莉を見つけた。その背に向かって「姉さん」と呼びかける。

「……」

 茉莉がピタリと立ち止まる。

「引き出物忘れてる」

「……」

「お母さんと何かあったの? 全然話していなかったし……」

 他に聞きたいこともあった。翔とあの後どうなったのか。

 だが、勇気が出ない。それに、自分に問い質す資格があるのかもわからない。