(いい子……)
やっとかけてもらったその言葉を虚しく感じた。
――その後入江家の経済苦が伯母の薫の耳に入り、更に美波の窮状を知って飛んできてくれた。大学進学のためにならと、自分も決して裕福な方ではないのに、奨学金の保証人にもなってくれたのだ。更に、家を出た方がいいと助言してきた。
『美波ちゃん、あなたは緑と……お母さんと離れた方がいいと思うの。ほんと、あの子ったらどうしてああなっちゃったのかしら。衛さんも衛さんよ。一体何をしでかしたの』
『でも、伯母さん』
『あのね、帰ることはいつでもできるから。でもね、家を出られるタイミングは今しかない。全部私のせいにしていいから、東京じゃない大学にしなさい。しばらく距離を取った方がいいわ』
その後美波は志望校を国立のY大に変更し、無事合格。奨学金とアルバイト代でなんとか学費と生活費を賄った。
もしあのまま家を出ず、無理矢理就職させられていたら、イダテンに入社など夢のまた夢だった。薫には感謝してもしきれない。
そして、さすがに七年も疎遠にしていると、両親への片思いも薄れてくる。こうして老いた母を目の前にしても、覚悟していたほど動揺しなかった。
自分の落ち着きぶりに自分で驚いてしまったほどだ。
(私……いつの間にかこの人が必要なくなっていたの?)
ところが、緑は違っていたらしい。
「あなた……イダテンに勤めているの?」
疑っているような、探るような、おもねるような口調で尋ねる。
四年前イダテンに就職した際、さすがに何も言わないとは……と思って電話で報告している。しかし、次女の大学の卒業式にも来なかっただけあって、「保証人だったら薫姉さんに頼んで」と返されただけだった。教えたはずの企業名も忘れていたのだろう。
(本当に……私のことはどうでもよかったのね)
緑は更にねっとりした視線で美波を見つめた。
「私も知ってる企業じゃない。立派になったのねえ。そう言えば大学はY大だったかしら」
口調は猫撫で声になっている。
「……そんなことよりも、お父さんは海外出張だって聞いたけど、どこの国に行ったの?」
せめて弔電を出させるなりして、体裁を取り繕った方がいいのではないか。
緑の頬がひくりと引き攣る。
「……発展途上国だから、電話が繋がらないの。だから、今回は仕方がないのよ」
「でも――」
「――美波ちゃん!」
不意に薫に呼ばれて振り返る。
「ちょっと手伝ってほしいことがあるの。パソコンのことってよくわからなくて――」
「わかりました。じゃあ、母さん、また後でね」
やっとかけてもらったその言葉を虚しく感じた。
――その後入江家の経済苦が伯母の薫の耳に入り、更に美波の窮状を知って飛んできてくれた。大学進学のためにならと、自分も決して裕福な方ではないのに、奨学金の保証人にもなってくれたのだ。更に、家を出た方がいいと助言してきた。
『美波ちゃん、あなたは緑と……お母さんと離れた方がいいと思うの。ほんと、あの子ったらどうしてああなっちゃったのかしら。衛さんも衛さんよ。一体何をしでかしたの』
『でも、伯母さん』
『あのね、帰ることはいつでもできるから。でもね、家を出られるタイミングは今しかない。全部私のせいにしていいから、東京じゃない大学にしなさい。しばらく距離を取った方がいいわ』
その後美波は志望校を国立のY大に変更し、無事合格。奨学金とアルバイト代でなんとか学費と生活費を賄った。
もしあのまま家を出ず、無理矢理就職させられていたら、イダテンに入社など夢のまた夢だった。薫には感謝してもしきれない。
そして、さすがに七年も疎遠にしていると、両親への片思いも薄れてくる。こうして老いた母を目の前にしても、覚悟していたほど動揺しなかった。
自分の落ち着きぶりに自分で驚いてしまったほどだ。
(私……いつの間にかこの人が必要なくなっていたの?)
ところが、緑は違っていたらしい。
「あなた……イダテンに勤めているの?」
疑っているような、探るような、おもねるような口調で尋ねる。
四年前イダテンに就職した際、さすがに何も言わないとは……と思って電話で報告している。しかし、次女の大学の卒業式にも来なかっただけあって、「保証人だったら薫姉さんに頼んで」と返されただけだった。教えたはずの企業名も忘れていたのだろう。
(本当に……私のことはどうでもよかったのね)
緑は更にねっとりした視線で美波を見つめた。
「私も知ってる企業じゃない。立派になったのねえ。そう言えば大学はY大だったかしら」
口調は猫撫で声になっている。
「……そんなことよりも、お父さんは海外出張だって聞いたけど、どこの国に行ったの?」
せめて弔電を出させるなりして、体裁を取り繕った方がいいのではないか。
緑の頬がひくりと引き攣る。
「……発展途上国だから、電話が繋がらないの。だから、今回は仕方がないのよ」
「でも――」
「――美波ちゃん!」
不意に薫に呼ばれて振り返る。
「ちょっと手伝ってほしいことがあるの。パソコンのことってよくわからなくて――」
「わかりました。じゃあ、母さん、また後でね」

