俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――プロジェクト顔合わせ終業後、美波は部長の三井とともに、専門店営業本部に戻ることになった。

「部長、本当に私でよかったんでしょうか」

 廊下の途中で改めて三井に尋ねる。

 専門店営業本部部長の三井に、直々に呼び出されたのは一ヶ月前のこと。

 今回の合同プロジェクトに参加するので、自分のサポートをしてほしいと頼まれた時には、喜ぶどころではなく戸惑ってしまった。

 仕事のできる営業事務の社員なら本社の中にだけでもいくらでもいる。秘書課に頼んでもっと有能な女性を一人回してもらう手もあっただろう。

 なのに、なぜまだ四年目に入ったばかりで役職もない、真面目以外なんの取り柄もない自分を……と。

 三井はその時と同じ答えを返した。

「君がよく気が付いて、きちんとした社員だからだよ。そんなこと当たり前だって思うだろう? それが、全然当たり前じゃないんだな。これができる社員は老若男女問わず意外にいない」

 人に気遣いができ、仕事は気を抜かずに丁寧にこなす――それがサポート役にとって一番大事なことだからと。

 三井は丸眼鏡の向こうから、にっとお茶目な笑みを浮かべた。

「……というのは建前で、ベテランのお局様だと口うるさいし、新入社員の男性社員だと頼りないし、君が一番気楽だからってのが大きいね。まあ、構えず適当にやりなさい。入江君は真面目すぎるくらい真面目だから、それでちょうどいいくらいさ」

「ありがとう、ございます。精一杯頑張ります」

 美波は胸を熱くしつつ、恐縮して軽く頭を下げた。三井が逆に気を遣ってくれたのがよくわかった。

「そうそう。その意気……って、忘れてた!」

 三井は小脇に抱えていたファイルから、資料を数枚取り出して手渡してきた。

「これ、マーケティング部に届けといてくれる? さっき渡さなきゃいけなかったんだよ」

「わかりました。先に戻っていてください」

「悪いね」

 美波は三井と別れマーケティング部へ向かった。

(マーケティング部ってことは、翔君がいるんだよね……)

 心臓が早鐘を打ち始める。

(何を考えているの。もう彼とはなん関係もない)