俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

「ちょっとごめんなさい」

 画面を見て目を見開く。

(伯母さん?)

 翔もスマホに目を落とし、「……入江さん?」と呟いた。

 自分と同じ姓を聞いて、美波の心臓が大きく跳ねた。きっと翔に電話を掛けてきたのは茉莉だ。

「悪い。俺も電話。じゃあな、お疲れ」

 翔は断りを入れて南に背を向けた。

 美波も伯母からの電話を放っておけず応答ボタンを押したが、後ろから聞こえてきた会話内容に、また心臓が鷲掴みにされたような気分になる。

「は? もうこっちに来た? 今どこなんですか」

 翔はスマホを耳から離すと、辺りをキョロキョロ見回した。

 美波は翔が気になって仕方なかったが、スマホから『美波ちゃん?』と聞こえたので、慌てて受話口に耳を当てる。

 伯母の薫は母の姉に当たる人だ。美波と家族が疎遠になった理由も知っており、親族の冠婚葬祭などの連絡は母に代わって彼女がしてくれていた。

「はい、もしもし」

『美波ちゃん? 元気? あのね、急な話なんだけど、お祖母ちゃんが亡くなったの。昨日倒れてそのまま……。前引いた風邪で持病が悪化したみたい。まあ、年も年だったしね……』

「えっ」

『今度お通夜と告別式があるんだけど、出る? あなたのお父さんとお母さん、茉莉ちゃんも来るだろうし、嫌なら無理にとは言わないけど……』

 母方の祖母には幼い頃可愛がってもらった。父や母と顔を合わせることになるのは気まずいが、最後のお別れはちゃんとしておきたい。

「もちろん行きます」

『わかったわ。ちょっと顔出すだけでもいいからね』

「いえ、そういうわけには。お手伝いできることがあれば言ってください」

 伯母は電話の向こうで溜め息を吐いた。

『あなたって……ほんといい子ね。どうして緑はわかってあげないのかしら……』

 美波は葬儀のスケジュール等、一通りのメモを取ると電話を切った。

 翔は茉莉と何を話していたのか、もう帰ったのだろうかと辺りを見回す。

 そして、何気なく横断歩道の向こう側に目をやって息を呑んだ。

 茉莉と翔が向かい合って佇んでいる。二人は何やら話し合っていたが、やがて茉莉が泣きながら翔に体を預けた。

「……っ」

 体が硬直して動かない。

 翔が茉莉の肩を掴んで何か言っている。だが、何を言っているのかはわからない。やがて二人はどこかへ行ってしまい、美波は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。