俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――翔が協力してくれたのもあり、なんとかギリギリで企画書は提出できた。

 所詮素人が考えたものだ。採用されるはずもないが、いい経験になったと思う。

 オフィスの消灯を済ませたのち、なんとなく二人で本社ビルの出入り口に向かう。ところが、そこで別れるのかと思いきや、翔は美波の隣に並んだので驚いた。

「高橋さんも電車に乗るの?」

「というよりは、俺の家が駅前のマンションなんだ」

 本社ビルから最寄り駅まで歩いて五分しかない。

「近くていいね」

「一分でも長く寝ていたいからそこにした。俺、寝起きが悪くてさ。目が覚めてから完全に覚醒するまで、一時間はぼーっとしているんだよ」

「えっ、意外。ぱっと起きてさっと支度できるタイプかと」

 翔は憮然とした表情になった。

「無理だな。俺が一番偉いと思っているのは、総理大臣よりアメリカの大統領より、早起きできる奴ってくらいだ」

 これにはつい噴き出してしまった。

 ということはとふと十年前を思い出す。

(午前中の朝一番の面会でも、きちんと時間を守ってくれていた。あの時……きっと早起きしてくれていたんだ)

 胸の奥がきゅっと軽く締め付けられる。

(翔君には私の知らない顔がまだたくさんある)

 そして、もっと彼のことを知りたいと感じた。

(どうしよう……。私、やっぱり翔君が好き)

 十年前の翔も今の翔も大好きだ。これから成長していく翔も見守りたい。

 帰り道の五分間はあっという間に過ぎてしまい、気が付くともう最寄り駅の西口まで来ていた。

「じゃあ、また明日」

「うん……」

「……」

 なんとなく翔との間に沈黙が落ちる。

 美波はショルダーバッグのストラップをギュッと握り締めた。

(やっぱりこのままじゃ駄目。このまま逃げ続けていたらきっと後悔する)

 だが、今更翔に真実をどう打ち明ければいいのか。

 自分が「ナツ」で茉莉はそうではないと告げて、翔はどちらを信じてくれるのだろう。

 手をこまねく間に不意に翔が立ち止まる。

「入江さん」

「はい?」

 翔はしばし黙り込んでいたが、やがて再び口を開いた。

「俺――」

 ところが、時を同じくして、二人のスマホから着信音が鳴り響いたのだ。