俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 とはいえ、なるべく長引かせないために、一時間後には引き摺ってでも帰すと宣言する。

「ダラダラやっているから逆に終わらないんだ。今から一時間で終わらせると決めて取りかかれ」

「わ、わかった……」

 美波は再びパソコンの画面に向かった。

「高橋さんは遅くなって大丈夫なの? もし彼女を待たせていたら悪いし」

 胸の奥がズキリと痛む。

 あれから茉莉との間にどんな遣り取りがあり、どこまで進展したのかまったく知らない。

(でも……姉さんと……何か約束があるのなら……)

「――彼女なんていない」

「えっ」

 思わず翔の横顔に目を向ける。

 翔は前を向いたまま、「ずっといなかったよ」と呟いた。

「昔は彼女もいたし、それなりに遊んでもいたけど、もうそんな気になれないから」

 翔の目はここではない、はるかに遠い場所を見つめているように見えた。美波はその眼差しに惹き付けられたが、すぐに我に返って「何を考えているの」と自分を叱咤した。

(一瞬、まだフリーなんだってほっとしちゃった……)

 まだ茉莉と付き合ってはいないようだが、これからどうなるのかはわからない。少なくとも、今茉莉が一番翔の近いところにいるのは確かなのだから。

 醜い自分の感情をごまかそうと笑みを浮かべる。

「そうなんだ。私も似たようなものだよ」

「彼氏、今いないのか」

「今というか……私高橋さんみたいにモテないから。男の人と付き合ったことが一度もないの」

 見栄を張っても仕方がないので正直に打ち明ける。

「嘘だろ」

 即座にそうツッコまれ、大人しい美波もさすがにムッとした。

「こんなこと嘘言ってどうするの」

「いや、あんたみたいな女に男が言い寄らないはずないだろ。……あんた、鈍いだろ。好かれても気付かなかっただけじゃないか。でも、そうか。男いたことないのか……」

 鈍いと言われてますますムッとしていまう。

「もう、お世辞は結構です。自分のことは自分で一番よくわかってるので」

「……」

 翔はまじまじと美波を見つめていたが、やがてぷっと噴き出し、「あんた、やっぱり面白い女だな」と呟いた。

 どこかで聞いたことがあるようなセリフだった。

「どうして笑うんですか」

「いや、怒った顔初めて見たから。……こんな顔するんだなって思って」

 人の怒った顔の何が面白いのだろう。

「だって、面白いって褒め言葉じゃないもの」

「……」

 翔の眼差しがふと優しいものになる。

 それを見た美波の心臓がドキリと跳ねた。

「なら、なんて言ってほしかった?」