俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――こうした美波の硬直した心境とは真逆に、プロジェクトは順調に進んでいった。

 市場調査とターゲティングを終え、商品企画の段階まで進んでいる。

 今回は新技術を採用した新シリーズの展開だ。ある程度専門知識が求められるために、いつもならマーケティング部内の企画部門に任せる。

 しかし、今回はやはり社長の提案で、プロジェクトに直に関わった社員、全員が企画書を提出するよう求められたのだという。

 美波はその連絡を三井から受けた時、思わず「私もですか!?」と自分を指差してしまった。

「そうそう。入江さんだけではなく全員ね。当然僕もやるよ」

「でも、私は素人ですし……」

「素人だから自由に考えられるって調書もあるよ。それに、今回は企画といってもブレインストーミング的なものだし、採用されることの方が少ないから。されてもちゃんとプロが手直しするし、そんなに構えて書かなくても大丈夫」

 一ヶ月後までに三案出してほしいのだという。

 はっきり言ってまったく自信がない。しかし、仕事ならばやるしかなかった。

「……わかりました」

 なお、美波は現在プロジェクトに関わる業務だけではなく、専門店営業本部の営業事務も担っている。つい先週一人急に退職してしまったためだ。そんな中で更に一つ仕事が増えたので、まさにてんてこ舞いの状況だった。

 美波の心境を察したのか、三井が「入江さんが忙しいのはわかっているからね」と頷く。

「まあ、僕らなんてテキトーでいいんだよ、テキトーで」

「そうですね……」

 だが、いくら適当にと言われても、適当にできないのが美波である。

 締め切り前日の夜遅く、営業事務で残業が発生したのもあって、うんうん唸りつつPCに向かっていた。なお、すでに他の社員は全員帰宅している。

 美波はこのプロジェクトのメンバーとなるまではただの営業事務で、営業のサポート業務が仕事。自分で考えて何かをやる機会がなかった。

 それだけに自由にどうぞと言われても難しい。なんとか二案はまとめたものの、あと一案がまったく思い浮かばなかった。

 パソコンに表示された時計が午後十一時を指し示す。同時に、ロイヤルミルクティーの缶がデスクにとんと置かれた。美波が一番好きなソフトドリンクだった。

「えっ……」

 驚いて思わず顔を上げる。

「翔……君?」