俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 翔はそんな「ナツ」の本質を感じ取っていたから、美波を目の前にしてもなんの違和感も抱かなかった。むしろ、思い描いていたとおりの女性だと嬉しくなった。

 だが、姉の茉莉には不信感を覚えた。

 茉莉がイダテンのプロジェクトを担当することになり、取引先や各部署の代表を集めて顔合わせの会食を行った夜のことだ。

 翔は美波に聞いていた通り、茉莉の声が美波とほぼ同じで、更に顔立ちもよく似ているのに驚いた。

 美波の雰囲気は大人しく控え目で、茉莉は華やかで洗練されているので、よく見れば別人だとわかる。しかし、服や化粧を同じにすれば、ほとんど差はないのではないか。いや、地味でも茉莉と同格に見える分、実は美波の方が美しい女性なのかもしれない。

 それでもここまで似ていると、念のために茉莉が「ナツ」ではないか、確認をしなければと感じた。外に呼び出し十年前のことについて話してみた。

 だが、その最中に「彼女がナツだったとして、どうなりたいんだ」と疑問が湧き上がった。

(茉莉さんが「ナツ」だったとしても、俺が一緒に砂浜を歩きたいのは、青灰色の海を見たいのは彼女じゃない。俺は……入江さんが好きだ)

 気付いてしまうともう茉莉のことなどどうでもよくなってしまった。ところが、茉莉は翔の話を聞き終えるなり、「ナツ」は自分だと主張したのだ。ずっとあなたを忘れられなかったと目を潤ませもした。

(嘘だ)

 翔にはすぐにわかった。

 十年前目が見えなくなったことがきっかけで、すっかり敏感になった翔の聴覚は、視力が回復して以降も健在だった。

 どれだけ巧妙に嘘を吐いたところで、微妙な口調の変化や声の高低、タイミングなどから、嘘を吐いているかどうかくらいすぐにわかる。この特技のおかげで営業をやっていた頃、取引相手の嘘を見抜き、商売に成功してきたくらいだ。

『あなたにまた会えてよかった』

 茉莉のこのセリフも嘘だとわかる。

 彼女は自分に恋などしていない。なのになぜ、自分を「ナツ」だと偽ってまで繋がりを持とうとするのか。

(入江さんのあの怯えた態度と何か関係があるのか?)

 原因を突き止めなければと感じた。そのためにも茉莉とは今後も接触する必要がある――。