俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 十年前自分たちが病院で出会ったばかりの頃、翔は目の怪我でサッカー選手生命は絶望的だと告知されていた。もうサッカーなんて嫌いになってしまいたい、どうして俺は生きてるんだと破れかぶれになっていたのに。

(完全に……過去を克服できたんだね。もう十年も経ったんだもの。ごめんね。最後までそばにいられなくて)

 喜びが込み上げてくるのと同時に、切なさと懐かしさが押し寄せてくる。

(ううん、私こそもう……過去でしかないのね。それ以前に彼は覚えているのかどうかもわからない。きっと忘れてる)

 美波が思いを馳せる間に、次々と全員が自己紹介をしていく。

 広報部のやり手課長といい、卸売営業のトップランカーといい、そうそうたる顔ぶれである。

 美波はただひたすら真面目にやってきただけの、なんの取り柄もない事務の自分が場違いに思えてならなかった。

「では、次に専門店営業本部の入江さん」

「……はい」

 順番が回ってきたので恐る恐る席から立つ。大人になっても物怖じする性格は治っておらず、どうしても声が震えてしまう。

 心の中で自分を叱咤し、なんとか落ち着きを取り戻した。

「入江美波と申します。普段は営業事務を担当しております」

「……!」

 美波が声を出した途端翔の切れ長の、同時に彫りの深い二重の目が大きく見開かれた。美波を食い入るように見つめる。

「今回、三井部長のサポートと資料作成でお手伝いをさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします……」

 だが、美波はそつなくこなすことに精一杯で、翔の射抜くような眼差しに気付かなかった。