――翔はあれから美波と一緒に仕事をしながら、姉の茉莉について調べていた。
茉莉は現在イダテンの新規の取引先である、ユニバーサルエージェンシーで働いている。前職は業界最大手の広告代理店だったそうだ。
あの業界では転職やヘッドハンティングは珍しくない。だが、退職した時期が中途半端だったので気になった。こうした場合大抵訳ありだ。
ところが、それ以上調査が進まない。悪友が社長をやっている探偵事務所に頼み、残った社員に聞き込みをしてもらったのだが、さすが最大手。コンプライアンスと守秘義務の厳守が徹底しており、社員たちはなかなか口を割らない。皆「茉莉さんは優秀だったから引き抜かれた」と繰り返すばかりらしい。
実際、茉莉は昔から美人で優秀な女性だと評判だった。対照的に、妹の入江さんは大人しく目立たなかったと。
翔は美波が目立たなかったと聞いて、冗談だろと笑い出しそうになった。
(入江さんはあんなに綺麗なのに?)
綺麗なのは見た目だけではない。その心根も優しく思いやりがある。
美波はプロジェクトの事務担当、こちらはマーケティング担当なので、顔を突き合わせることは少ない。それでも、彼女が人間に対しても仕事に対しても誠実で、ひたむきな女性なのだとはすぐにわかった。何事にも決して手を抜かないし、誰かがしたミスもさり気なくフォローする。
これほど有能なのに埋もれていたのは、今まで裏方のフロントオフィス業務ばかりしていたのと、彼女の大人しい雰囲気のせいだろう。
また、化粧もマナー違反にならない程度でしかなく、薄く地味で華やかさや派手さがほとんどない。イダテンの女性はオフィスカジュアルもOKなのに、いつもグレーのスーツでせっかくの可愛い顔立ちが映えない。
ちなみに、それでも控え目な美波に好意を抱き、食事に誘ったり、さり気なく交際を申し込んだりした男は、社内にもそれなりの数いたようだ。
だが、美波は食事に誘われると、「私なんかが一緒だとご飯が不味くなってしまいますから……」。「俺、君とだったら結婚してもいいな~なんて思っているんだ」と遠回しの告白をされると、「ありがとうございます。でも、気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」と困ったように返したのだという。
振られた面々は「気を遣って優しく断ってくれた」と捉えているようだが、翔はどうもそのようには思えなかった。美波は本気でそう思っていた――つまり、自己評価が異様に低いのではないかと。
実は十年前「ナツ」と話していても、時折そう感じることがあった。
茉莉は現在イダテンの新規の取引先である、ユニバーサルエージェンシーで働いている。前職は業界最大手の広告代理店だったそうだ。
あの業界では転職やヘッドハンティングは珍しくない。だが、退職した時期が中途半端だったので気になった。こうした場合大抵訳ありだ。
ところが、それ以上調査が進まない。悪友が社長をやっている探偵事務所に頼み、残った社員に聞き込みをしてもらったのだが、さすが最大手。コンプライアンスと守秘義務の厳守が徹底しており、社員たちはなかなか口を割らない。皆「茉莉さんは優秀だったから引き抜かれた」と繰り返すばかりらしい。
実際、茉莉は昔から美人で優秀な女性だと評判だった。対照的に、妹の入江さんは大人しく目立たなかったと。
翔は美波が目立たなかったと聞いて、冗談だろと笑い出しそうになった。
(入江さんはあんなに綺麗なのに?)
綺麗なのは見た目だけではない。その心根も優しく思いやりがある。
美波はプロジェクトの事務担当、こちらはマーケティング担当なので、顔を突き合わせることは少ない。それでも、彼女が人間に対しても仕事に対しても誠実で、ひたむきな女性なのだとはすぐにわかった。何事にも決して手を抜かないし、誰かがしたミスもさり気なくフォローする。
これほど有能なのに埋もれていたのは、今まで裏方のフロントオフィス業務ばかりしていたのと、彼女の大人しい雰囲気のせいだろう。
また、化粧もマナー違反にならない程度でしかなく、薄く地味で華やかさや派手さがほとんどない。イダテンの女性はオフィスカジュアルもOKなのに、いつもグレーのスーツでせっかくの可愛い顔立ちが映えない。
ちなみに、それでも控え目な美波に好意を抱き、食事に誘ったり、さり気なく交際を申し込んだりした男は、社内にもそれなりの数いたようだ。
だが、美波は食事に誘われると、「私なんかが一緒だとご飯が不味くなってしまいますから……」。「俺、君とだったら結婚してもいいな~なんて思っているんだ」と遠回しの告白をされると、「ありがとうございます。でも、気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」と困ったように返したのだという。
振られた面々は「気を遣って優しく断ってくれた」と捉えているようだが、翔はどうもそのようには思えなかった。美波は本気でそう思っていた――つまり、自己評価が異様に低いのではないかと。
実は十年前「ナツ」と話していても、時折そう感じることがあった。

