俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 状況が把握できずに混乱し、声を失ってその場に立ち尽くす。

(……ずっと探していた女の子って……ナツの……私のこと?)

 呆然とする美波に気付きもせず、美波は大きな目を潤ませて言葉を続けた。

「あの頃私ちょうど受験で、心の余裕がなかったの。それで、あなたから逃げてしまった……。この十年ずっと後悔していたの」

 そのセリフで我に返った。

 恐らく翔は自分にそっくりな茉莉の声を聞いて、彼女こそが捜していた「ナツ」だと考え、確認しようとしたのではないか。

 そこまでは理解できたが、なぜ茉莉が「ナツ」だったと名乗っているのか。

 翔が数秒黙り込む。

「では、入江さんが彼女だと……」

「角膜移植が成功したんだって確かめられただけでも、あなたにまた会えてよかったわ。ねえ、やっぱり二人で抜け出さない? あの頃のことを語り合いたいの」

「……」

 翔はやはり何も言わずにいたが、不意に肩をピクリとさせたかと思うと、振り返って美波の姿を目に留めた。

「入江さん」

 名前を聞いて茉莉も美波を見る。たちまちその美しい瞳に険が宿った。

(邪魔するんじゃないわよ)

 美波でなければこの変化はわからなかっただろう。十八で進学のために家を出て行くまで、ずっと一緒に暮らしていたからこそ気付く表情だった。

「あら、もうこんなに時間が経っていたの」

 茉莉は翔に「行きましょう」と話し掛けた。

「これからいくらでも時間はあるんだから。ね?」

「……そうですね」

 翔がソファから立ち上がる。

「もう、敬語はやめましょうよ。水くさいじゃない」

 そうするのが当たり前だと行ったように、なんの躊躇いもなく翔の隣に並ぶ。

 その背も「お前は邪魔だ」と語っていた。