俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 アルコールが入っているのもあるかもしれないが、茉莉の口調はいつの間にか気易いものになっていた。

「いいえ。さすがにそれは磯野さんが心配するので」

「だったら後日に仕切り直しって手もあるけど」

「外に出てもらえますか。五、六分で終わると思うので」

 二人は連れ立って個室の外に出て行った。

 美波はのろのろとグラスを手に取り、すっかり気の抜けた炭酸水の水面を見つめた。

(私、どうしてこんなに翔君と姉さんを気にしているの)

 自分を曝け出す勇気がなく、二度も翔を諦めたのだ。翔が誰と親しくなろうと、何か言える立場でもないのに。

 のろのろと炭酸水を飲み干し、給仕に来た店員に「もう一杯お願いします」と頼む。

 二杯目の炭酸水に口を付けたその時、端の席にいた磯野が「あれっ」と声を上げた。男性社員数人も近くにいる。

「高橋君ってどこ行っちゃったの? トイレ?」

「えっと……」

「高橋君が前の会社にいた時のことを聞きたくてさ。悪いけど、呼びにいってくれないかな」

 腕時計に目を落とすと、二人が出て行ってからもう一〇分経っている。

 一体何をしているのだろうか。

「わかりました。少し待ってください」

 美波は断りを入れて席を立った。

 あちらこちらを捜してみたのだが、店の前にも、エレベーター前の広場にも、同じ下位にあるショットバーにもいない。

 一階まで下りてホテルのロビーまで来てやっと見つけた。こちらに背を向けてソファに腰を下ろしている。向かいの席には茉莉が座っていた。

「高橋さ――」

 ところが、もう数メートル近付いたところで、二人の会話の内容が耳に飛び込んできたのだ。

「――あの時は何も言わずに立ち去ってごめんなさい。あなたがずっと捜しているその女の子は私なの」