俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 茉莉が美波の名前を呼んだからだろう。

 幹事だけではなくその場にいたイダテンの社員全員が、美波と交互に見比べて「もしかして」と呟いた。

「親戚の方ですか?」

(どうして)

 美波は頭の中がグルグル回るのを感じた。

(どうしてここに姉さんが?)

 二歳年上の姉の茉莉は、六年前業界トップの大手広告代理店に入社した。中高大ともに一流校を卒業した、華やかな彼女に相応しい勤め先だと、母親が鼻高々だったのを覚えている。

 しかし、今回協力してもらう広告代理店は、その業界最大手ではない。社長の方針でデジタルに強い新興企業・ユニバースエージェンシーに任せている。

 こちらは現在どんどんシェアを伸ばしてはいるものの、規模では業界トップに比べるべくもない。給与も差があるだろう。華やかさや一流を好む茉莉が、なぜ、そしていつの間に転職していたのか。

 いや、そんなことよりも――。

「――妹なんですよ」

 茉莉が笑いならあっさりとそう答えた。

「まさか美波がこのプロジェクトに参加していたなんて知りませんでした」

「そうだったんですか。まあ、いくら家族でも仕事内容まで把握できませんよね」

 指定された座椅子に腰を下ろす。奇しくもそこはテーブルを挟んだ翔の向かいだった。

「では、全員揃ったので、少々早いですが始めましょうか。本日幹事を務めさせていただきますマーケティング部の磯野です」

 茉莉は今日初めて会うからと、順に自己紹介をしていく。

 順番が美波のところに回ってきた時、覚悟はしていたもののやはり茉莉との関係を尋ねられてしまった。

「専門店営業本部の入江美波です」

「入江さん……ちょっとややこしくなるから名前で呼ばせてもらいますね。茉莉さんと姉妹なんだってね?」

 美波が答える前に茉莉がさり気なく話に入ってきた。

「二歳差なんですよ。この子、うまくやっていけていますか? 小さい頃は大人しくて、ドジなところもあったから、ちょっと心配なんですよね」

 ああ、まただと美波はグラスをぎゅっと握り締めた。
 物心付いた頃から茉莉はこうだった。あなたはできそこないで、私が上なのだと差を突き付けてきた。人の前でもこうして思い知らせようとする。

 能力の差は一目瞭然で楽勝だろうに、なぜこんなことをするのだろう。自分は言われなくてもよくわかっているのに。ずっと両親に「どうして茉莉のようにできないの」と言われ続けてきたのだから。

「ねえ、美波、どうなの。皆さんにご迷惑をおかけしてない?」