「……」
翔が優しい微笑みを浮かべた。美波が初めて見る笑い方だった。
「ここは一つ平等に行こうぜ。全部半分にするってのはどうだ。ナイフあるか?」
「あっ、うん。プラスチックのものなら……」
美波は翔に言われるがままケーキを全部半分にし、紙皿に取り分けて「はい、どうぞ」と翔の膝の上に置いた。
翔は現在なるべく自力で食事を取ることにしているそうだ。介助されるのはやはり抵抗があるし、失敗してもいいからと看護師に言われたからと。
だから、ケーキとフォークだけを手渡して、手助けはしないつもりだったのだが、「食わせてくれない?」と頼まれたので驚いた。
「えっ、でも……」
「クリームが顔に付いたら嫌だし」
「わ、わかったわ」
美波はチョコレートケーキを切り取り、「どうぞ」と翔の口元まで近付けた。
(これって、漫画でカップルがやっていた、「はい、あーん」じゃ……)
同時に、翔の端整な顔がいつもより近付いて、また心臓がドキドキしてしまった。
(やっぱり綺麗な顔しているな……)
決して中性的な顔立ちではないのにそう感じる。青年らしい甘さのないシャープな頬の線と、整えたわけでもないのに形のいい眉。すっと通った鼻と薄い唇――。
翔がパクリとケーキを食べる。
「うまい! やっぱりケーキはこれくらい甘くなきゃな。甘さ控え目なんてクソ食らえってんだ。うん、夏に食うケーキも悪くないな」
「美味しかったのならよかった。ここのケーキ、私大好きなの」
翔はその後も美波に「はい、あーん」をねだった。ところが、シュークリームの番になったところで、翔がのだ体をわずかに動かしたので、美波の手が滑ってカスタードクリームが頬に付いてしまった。
「あっ、ごめん! 今取るから」
美波は制服のポケットからハンカチを取り出し、翔の頬をそっと撫でるように拭いた。
自分から翔に触れたのは五月に翔を止める際、抱き付いて以来ではないだろうか。
心臓を高鳴らせつつハンカチを仕舞う。
「……サンキュ」
まだクリームが付いていないかと気になるのか、翔が拭いたところを自分の手で触れている。
「もう、ちゃんと拭いたよ?」
「違う。お前を疑っていわけじゃないよ。ただ、俺もお前に――」
「えっ、何?」
「……いや、なんでもない。まだ早いよな」
翔はそれきり口を噤み、また笑って空を仰いだ。
翔が優しい微笑みを浮かべた。美波が初めて見る笑い方だった。
「ここは一つ平等に行こうぜ。全部半分にするってのはどうだ。ナイフあるか?」
「あっ、うん。プラスチックのものなら……」
美波は翔に言われるがままケーキを全部半分にし、紙皿に取り分けて「はい、どうぞ」と翔の膝の上に置いた。
翔は現在なるべく自力で食事を取ることにしているそうだ。介助されるのはやはり抵抗があるし、失敗してもいいからと看護師に言われたからと。
だから、ケーキとフォークだけを手渡して、手助けはしないつもりだったのだが、「食わせてくれない?」と頼まれたので驚いた。
「えっ、でも……」
「クリームが顔に付いたら嫌だし」
「わ、わかったわ」
美波はチョコレートケーキを切り取り、「どうぞ」と翔の口元まで近付けた。
(これって、漫画でカップルがやっていた、「はい、あーん」じゃ……)
同時に、翔の端整な顔がいつもより近付いて、また心臓がドキドキしてしまった。
(やっぱり綺麗な顔しているな……)
決して中性的な顔立ちではないのにそう感じる。青年らしい甘さのないシャープな頬の線と、整えたわけでもないのに形のいい眉。すっと通った鼻と薄い唇――。
翔がパクリとケーキを食べる。
「うまい! やっぱりケーキはこれくらい甘くなきゃな。甘さ控え目なんてクソ食らえってんだ。うん、夏に食うケーキも悪くないな」
「美味しかったのならよかった。ここのケーキ、私大好きなの」
翔はその後も美波に「はい、あーん」をねだった。ところが、シュークリームの番になったところで、翔がのだ体をわずかに動かしたので、美波の手が滑ってカスタードクリームが頬に付いてしまった。
「あっ、ごめん! 今取るから」
美波は制服のポケットからハンカチを取り出し、翔の頬をそっと撫でるように拭いた。
自分から翔に触れたのは五月に翔を止める際、抱き付いて以来ではないだろうか。
心臓を高鳴らせつつハンカチを仕舞う。
「……サンキュ」
まだクリームが付いていないかと気になるのか、翔が拭いたところを自分の手で触れている。
「もう、ちゃんと拭いたよ?」
「違う。お前を疑っていわけじゃないよ。ただ、俺もお前に――」
「えっ、何?」
「……いや、なんでもない。まだ早いよな」
翔はそれきり口を噤み、また笑って空を仰いだ。

