俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――美波は入院中何度か翔を見舞い、退院後もたびたび病院を訪れるようになった。

 ただし、病室に見舞うとなると、そのための手続きと身分証明書が必要になる。そこで本名がバレないよう、病院前にある庭まで出てきてもらうことになった。

「――翔君!」

 翔はベンチに腰を下ろしていた。かたわらには松葉杖が置かれている。

 右足の骨折はまだ完治していないが、もう松葉杖にすっかり慣れてしまい、最近では高速異動も可能らしい。

 医師たちからは車椅子を勧められているが、できるだけ体を動かしたいからと断っているそうだ。

「遅い!」

 翔は美波の声を聞くなり一喝した。

「二分の遅刻だぞ」

「ごめん、ごめん。電車が遅れちゃって。でも、二分でしょ? それくらいいいじゃない」

「お前な、二分を馬鹿にするな。サッカーの試合じゃ最後の一分で決まった試合もあるんだぞ。それにな、俺は気が短いんだよ」

「偉そうに言うことじゃないでしょ」

 美波は笑いながら隣に腰を下ろした。

「時報聞かなくても時間わかるんだ?」

「ああ。見えないと聴覚以外の感覚も鋭くなるみたいだ」

 時間の正確な経過だけではなく、湿度も把握できるようになってきたとか。

「すごいね。はい、これ、お土産。ケーキは食べられるんだったよね?」

 美波はケーキの箱を二つベンチに置いた。

「一つは担当の看護師さんに……あっ、でも、どんなに安くても病院の人にプレゼントって駄目なんだっけ」

「うーん、まあ、一応渡しておくよ。断られたら俺が食えばいいだけだ」

 翔の担当看護師は翔の、
「ナツに会いたいので、庭に連れて行ってほしい。でも、送り届けるだけで付き添いはやめてくれ」
、などという無茶な頼みを、毎回笑って引き受けてくれるのだという。

「よかったね。規則に厳しいタイプじゃないとか?」

 翔は一見元気だが目の見えない重症患者だ。よく許可を取れたなと感心してしまう。

 すると翔は唇の端を上げて不敵な笑みを浮かべた。

「そんなの簡単だ。ある方法を使えばいい」