――美波は入院中何度か翔を見舞い、退院後もたびたび病院を訪れるようになった。
ただし、病室に見舞うとなると、そのための手続きと身分証明書が必要になる。そこで本名がバレないよう、病院前にある庭まで出てきてもらうことになった。
「――翔君!」
翔はベンチに腰を下ろしていた。かたわらには松葉杖が置かれている。
右足の骨折はまだ完治していないが、もう松葉杖にすっかり慣れてしまい、最近では高速異動も可能らしい。
医師たちからは車椅子を勧められているが、できるだけ体を動かしたいからと断っているそうだ。
「遅い!」
翔は美波の声を聞くなり一喝した。
「二分の遅刻だぞ」
「ごめん、ごめん。電車が遅れちゃって。でも、二分でしょ? それくらいいいじゃない」
「お前な、二分を馬鹿にするな。サッカーの試合じゃ最後の一分で決まった試合もあるんだぞ。それにな、俺は気が短いんだよ」
「偉そうに言うことじゃないでしょ」
美波は笑いながら隣に腰を下ろした。
「時報聞かなくても時間わかるんだ?」
「ああ。見えないと聴覚以外の感覚も鋭くなるみたいだ」
時間の正確な経過だけではなく、湿度も把握できるようになってきたとか。
「すごいね。はい、これ、お土産。ケーキは食べられるんだったよね?」
美波はケーキの箱を二つベンチに置いた。
「一つは担当の看護師さんに……あっ、でも、どんなに安くても病院の人にプレゼントって駄目なんだっけ」
「うーん、まあ、一応渡しておくよ。断られたら俺が食えばいいだけだ」
翔の担当看護師は翔の、
「ナツに会いたいので、庭に連れて行ってほしい。でも、送り届けるだけで付き添いはやめてくれ」
、などという無茶な頼みを、毎回笑って引き受けてくれるのだという。
「よかったね。規則に厳しいタイプじゃないとか?」
翔は一見元気だが目の見えない重症患者だ。よく許可を取れたなと感心してしまう。
すると翔は唇の端を上げて不敵な笑みを浮かべた。
「そんなの簡単だ。ある方法を使えばいい」
ただし、病室に見舞うとなると、そのための手続きと身分証明書が必要になる。そこで本名がバレないよう、病院前にある庭まで出てきてもらうことになった。
「――翔君!」
翔はベンチに腰を下ろしていた。かたわらには松葉杖が置かれている。
右足の骨折はまだ完治していないが、もう松葉杖にすっかり慣れてしまい、最近では高速異動も可能らしい。
医師たちからは車椅子を勧められているが、できるだけ体を動かしたいからと断っているそうだ。
「遅い!」
翔は美波の声を聞くなり一喝した。
「二分の遅刻だぞ」
「ごめん、ごめん。電車が遅れちゃって。でも、二分でしょ? それくらいいいじゃない」
「お前な、二分を馬鹿にするな。サッカーの試合じゃ最後の一分で決まった試合もあるんだぞ。それにな、俺は気が短いんだよ」
「偉そうに言うことじゃないでしょ」
美波は笑いながら隣に腰を下ろした。
「時報聞かなくても時間わかるんだ?」
「ああ。見えないと聴覚以外の感覚も鋭くなるみたいだ」
時間の正確な経過だけではなく、湿度も把握できるようになってきたとか。
「すごいね。はい、これ、お土産。ケーキは食べられるんだったよね?」
美波はケーキの箱を二つベンチに置いた。
「一つは担当の看護師さんに……あっ、でも、どんなに安くても病院の人にプレゼントって駄目なんだっけ」
「うーん、まあ、一応渡しておくよ。断られたら俺が食えばいいだけだ」
翔の担当看護師は翔の、
「ナツに会いたいので、庭に連れて行ってほしい。でも、送り届けるだけで付き添いはやめてくれ」
、などという無茶な頼みを、毎回笑って引き受けてくれるのだという。
「よかったね。規則に厳しいタイプじゃないとか?」
翔は一見元気だが目の見えない重症患者だ。よく許可を取れたなと感心してしまう。
すると翔は唇の端を上げて不敵な笑みを浮かべた。
「そんなの簡単だ。ある方法を使えばいい」

