――翔は美波と一緒に病室に戻りベッドに腰を下ろすと、真っ先に「看護師には知らせないでくれ」と頼んできた。
「バレると今度こそ鍵閉められて監禁されそうだからさ」
「……」
美波はベッド脇に置かれていた、来客用の椅子に腰を下ろした。
「どうして抜け出そうとしたのか、理由を教えてくれたら知らせない」
「それは……」
「また同じことされたら冗談じゃないもの」
「……」
「もう、仕方ないな」
美波は腰を上げるとドアに向かって「看護師さーん」と叫んだ。
「さっき、ここの部屋の人逃げようとして――」
「待て! わかった! 言う! 白状するから止めろ!」
「最初からそうすればよかったのに」
美波はくすくす笑いつつ、不思議だと感じていた。
(なんだか私じゃないみたい)
四つも年上の、それもこんなにキラキラした特別な人の近くにいるのに、姉の茉莉を前にした時のように萎縮しない。それどころかいつもより大胆になれる。
(そうか。この人の目が見えないから……)
翔には美波の声しか聞こえない。どんな容姿で雰囲気なのかわからない。だから、茉莉と比べられることもない。
(……ごめんなさい。ずるいよね。でも……)
だったら、翔が誤解しているように、大胆でおかしな女でいたかった。
一方、翔は観念したと言ったように溜め息を吐き、今度は病室の天井を仰いだ。
「……ここから逃げ出したくてさ」
「逃げ出す? どうして? 入院しないと治らないでしょう」
「……」
長い指で見えない目を覆う。
「病室にずっといると、自分がもう自分がただの病人だって思い知らされる」
時折「畜生」と唸り、それでも言葉を続けた。
「薬とか、消毒液とか、そういうものの匂いがするだろう。だから、離れたかったんだ。……俺、サッカー選手目指してて、もうプロリーグのトップチームに内定してたんだ。それが、昨日ついに取り消された」
「バレると今度こそ鍵閉められて監禁されそうだからさ」
「……」
美波はベッド脇に置かれていた、来客用の椅子に腰を下ろした。
「どうして抜け出そうとしたのか、理由を教えてくれたら知らせない」
「それは……」
「また同じことされたら冗談じゃないもの」
「……」
「もう、仕方ないな」
美波は腰を上げるとドアに向かって「看護師さーん」と叫んだ。
「さっき、ここの部屋の人逃げようとして――」
「待て! わかった! 言う! 白状するから止めろ!」
「最初からそうすればよかったのに」
美波はくすくす笑いつつ、不思議だと感じていた。
(なんだか私じゃないみたい)
四つも年上の、それもこんなにキラキラした特別な人の近くにいるのに、姉の茉莉を前にした時のように萎縮しない。それどころかいつもより大胆になれる。
(そうか。この人の目が見えないから……)
翔には美波の声しか聞こえない。どんな容姿で雰囲気なのかわからない。だから、茉莉と比べられることもない。
(……ごめんなさい。ずるいよね。でも……)
だったら、翔が誤解しているように、大胆でおかしな女でいたかった。
一方、翔は観念したと言ったように溜め息を吐き、今度は病室の天井を仰いだ。
「……ここから逃げ出したくてさ」
「逃げ出す? どうして? 入院しないと治らないでしょう」
「……」
長い指で見えない目を覆う。
「病室にずっといると、自分がもう自分がただの病人だって思い知らされる」
時折「畜生」と唸り、それでも言葉を続けた。
「薬とか、消毒液とか、そういうものの匂いがするだろう。だから、離れたかったんだ。……俺、サッカー選手目指してて、もうプロリーグのトップチームに内定してたんだ。それが、昨日ついに取り消された」

