俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 それから更に二日後になると、美波は病室から出るのを許され、病棟内なら自由に歩き回れるようになった。まだ傷口は痛むものの我慢できる程度だ。

 そこで、退屈なので運動も兼ねて病棟内を探検してみた。だが、すぐに自分の病室のある高層階に戻ってきてしまった。

(みんな……結構お見舞いが来ていたな……)

 一階にあるカフェで軽症の患者が家族とお茶をしていたり、ロビーや中庭のベンチで友人と談笑していたり。

 そのように仲の良さを見せ付けられると、最低限の生活の面倒以外両親にほとんど無視され、独りぼっちでいる自分が悲しくなった。

「……?」

 病室に入ろうとして立ち止まる。隣部屋のドアが開いている。

 閉め忘れたのなら代わりにやろうとして、中に誰もいないのに気付いた。しかも、ベッドの布団もシーツもぐちゃぐちゃになっている。

「えっ……」

 翔はどこに行ってしまったのだろう。

 診察室や処置室に行ったのだったら、付き添いの看護師が閉め忘れるはずがない。家族や友人が見舞いに来て、一緒に出かけたのだとしても、ベッドをこんな状態のままにしておくものだろうか。

 不吉な予感に駆られる。

(看護師さんに連絡した方がいいんじゃ……)

 その時、外からカランカランと何かが落ちた音がした。何事かと廊下の下り階段近くを見て驚く。

 背の高い青年が床に両手両脚をつき、低い声で唸っていたのだ。左右に松葉杖が転がっており、転んだのだとわかった。

「大丈夫ですか⁉」

 慌てて駆け寄り青年の顔を覗き込む。

 両目に医療用の眼帯をした、パジャマ姿の背の高い青年だった。目を隠されているのに、顔立ちが整っているとわかる。そして、長い右足にはギプスをはめていた。

 その特徴的な格好から、すぐに翔なのだと判断できた。

(この人が……)