俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜

 ――その夜、美波はスマホで高橋翔の経歴を検索してみた。

「……すごい」

 つい感嘆の声を上げてしまう。

 日本サッカー界の期待の新星の十九歳。小学生の頃から伝統あるサッカークラブに所属し、華々しい成績を上げて才能を見出され、プロリーグのジュニアチームに加入。

 ナショナルチームメンバーに選抜された経験もあり、高校卒業時にはもうトップチームへの昇格が決定していたらしい。

(特別な……人なんだ)

 同時に不愉快な情報も目にすることになった。

 SNSでもサッカーファンの間でも、翔の怪我は話題になっていた。

『貴重な才能がぁぁぁ。もう復帰は無理なんじゃね?』

『失明したって噂本当だからもう終わりだろうな』

『いや、その情報どこ由来だよ』

『高橋のジュニア時代のチームメイト。おっと誰とは聞くなよ。”正直ざまあって感じ”とも言っていたな。高橋って結構俺様だったみたいだぞ。できる奴だけに誰も口答えできなくて、メンバーは苦労していたみたいだな』

「……っ」

 読んでいられずに画面を閉じる。

(高橋さんがこのことを知りませんように)

 神様はなぜこんな悲劇を背負わせるのだろう。才能や栄光を与えておいて、後から取り上げるのが一番残酷だ。

(……もう止めよう。私には何もできないんだから。コソコソ詮索するなんて高橋さんに失礼よ)

 何をやっても人並み以下の小娘が力になれることなどない。

 勉強した風でもないのに、進学校の中高一貫校にあっさり合格し、更にレベルの高い私大を目指す姉の茉莉。

 反対に、一生懸命頑張ったのに受験に失敗し、公立の中学、高校にしか入学できなかった自分。

 芸能人にたびたびスカウトされる茉莉に比べ、暗くて地味で冴えない容姿。

 脳裏に今まで浴びせかけられた残酷な言葉が蘇った。

『どうして茉莉はできるのにあなたはできないの』

『あの子は美人なのにねえ』

 頭から布団を被ってギュッと目を閉じる。

(自分のことは……自分が一番よくわかっているじゃない)