冬の光にヴェールは要らない

杏香に申し訳ないと思っていて、本心を見せない自分をどこか後ろめたく思っている私にとって、その言葉は「許し」だった。

そんな許しを出した後に壮矢はこう続けた。



「でも、向き合う前に僕に失望しないで。逃げないでほしい」



そんな壮矢の言葉に私はなんて返せば良いか分からない。

それでも、言葉の意味は頭に響くくらい伝わってきている感覚がした。

「なぁ、万桜。折角、万桜が聞かなかった『僕らが海に来ている理由』を言っても良いか? 別に僕が明かすから、万桜も本心を見せてほしいって意味じゃない」

そう前置きをして、壮矢は話し始めた。

「昔から両親が忙しい人で、放課後は僕が拓人の面倒を見ているんだ。拓人は今5歳だから幼稚園が閉まるまで見てもらっても良いのだけれど、どうせ両親が帰ってくるのが夜の10時位だから俺が高校の帰り道に迎えに行っている。それで、拓人が海が好きだから家から一番近いこの海に来るのが日課」

壮矢は淡々と早口でそう言った。

「な? 深い理由じゃないだろ? むしろ良くある理由だと思う。でも、学生の僕が放課後に拓人の面倒を見るのは割と辛い時もあったんだ。今はもう楽しいけれど。だから、俺にとっては簡単に踏み込まれたくなかったんだと思う。こんな10秒で終わる話でも、本人にとっては辛いことだってあるものだし」

壮矢のその言葉の意味を私は痛いほど理解出来た。

【10秒で終わる話でも、本人からしたら辛い場合もある】

まさにその通りだと思う。

辛さなど人それぞれなのだから。