冬の光にヴェールは要らない

「万桜はここに来てから、僕にだって拓人にだって何で海に来ているのかを聞いたことがないだろ? それはきっと万桜の『聞かないという優しさ』だって拓人だって気づいている」

「それは……!」

そこで言葉を止めてしまって続きを言えない私に壮矢は何も言わない。

静かに私の次の言葉を待っている。

「それは……私だって本心を見せたくないのに、二人にだけ見せてもらおうなんて思えないだけ。優しさからじゃない」

「優しさからだよ。相手にだけ踏み込みたがる奴だっている」

そして、壮矢は私から目を逸らして海に視線を向けた。

「僕だって万桜に言っていないことがある。万桜が本心を言えないように。でも……それでも、そういう繋がりでも良いと思うんだ」

壮矢の視線は海に向いているのに、私は壮矢の方を見たまま動けなかった。

「隠し事があるままでも、嘘をついたままでも、いま僕と万桜が話していること全てが嘘なわけじゃない。この繋がりが悪いわけじゃない」

胸がキュッと締まって、喉に何が詰まったみたいな感覚がした。

私はこの感覚を知っている。

泣く前の感覚だ。