冬の光にヴェールは要らない

「それにたまには万桜と二人でゆっくり過ごしたかったから。出会ってからずっと慌ただしかったし」

壮矢の言葉に私は少し申し訳なくなった。

私が壮矢と距離をおこうとして早く帰りたがっていたので、壮矢との会話が駆け足になっていたのだろう。
 
今だって壮矢といつか縁が切れるだろうと思っているのだと思う。

それでも、もう今すぐに逃げる気が無くなっていた。
 
あの日の壮矢の言葉をもう一度頭の中で繰り返す。

『嘘つきで良いよ。でも、離れないで』

出会ってから冷たい対応しかしていない私に壮矢が願ったことは「離れないで」だけだった。

嘘をつくことすら許してくれた。
 
だから、壮矢の「離れないで」という願いまで無視することは嫌だったのかもしれない。