冬の光にヴェールは要らない

「先ほど手袋を渡した時に触れた手が氷のように冷たくなっていました。もし良ければ、これも」

 青年が制服のポケットから使い捨てカイロを取り出し、私が握っている手袋の上にさらに押しつけるように渡される。

「新品じゃなくて申し訳ないですが、無いよりマシだと思うので。では」

 青年と拓人くんが私から離れていく。海から離れていく。どうしたら良いかすぐに判断出来なくて、言葉を紡げない。

「お姉ちゃん、またねー!」

拓人くんが私に大きく手を振っている。

先ほどの会話は聞こえていないはずなのに、まだ子供だからだろうか。

当たり前に次も会えると思っているようだった。

拓人くんの前で断ることが出来なくて、ぎこちなく手を振り返す。
 
夕日はいつの間にか沈み、辺りは一気に真っ暗に変わる。

私は光がなくて、水が黒々と渦巻いている海を振り返った。

当たり前だが、沈んでしまった夕日は見えない。

見ることなど出来ない。

「まだ沈まないでって言ったのに」

姿の見えない敵に文句を言っているようだった。