冬の光にヴェールは要らない

子供の大きな声は誰もいない冬の澄み切った空気の中ではよく通るのかもしれない。

「あー、赤い太陽無くなっちゃう!」

それがタイムリミットを告げる言葉だった。
 
「拓人、そろそろ帰ろう。ほら、お姉ちゃんにお礼を言って」

青年に促された拓人くんは、私に近づきもう一度「ありがとう!」と元気よく言い放った。

もうこの手袋を返すタイミングは逃した。

というか、青年は私が今すぐに返せないタイミングを狙っていた。

「今日は本当にありがとうございました。僕は、笹原 壮矢(ささはら そうや)です。よく放課後に拓人を連れて海に遊びにくるんです」

その言葉は私の返答を求めていなかった。

私が断ることを許していなかった。