冬の光にヴェールは要らない

「私が拓人を家に置いて海に戻った理由も、泣いていた理由も聞かないんですね」

聞けるはずないだろう。

友達でも踏み込まないことかもしれないのに、初めて会った人に聞く訳がない。
 
しかし、青年は止まってくれない。

もう一度拓人くんから私へ視線を移す。

次の視線は先ほどとは違い、瞳の奥を見ているような刺すような鋭さを感じる。

あんなに礼儀の正しく、距離感を間違えないようにしてくれていた青年とは思えない。
 
青年はつけていた灰色の手袋を外し、私の手に無理やり握らせる。

「あの……」

 


夕日よ、まだ沈まないで。



今、沈むことは許さない。

 

お願い、沈まないで。このままじゃ……




「僕のその手袋は予備じゃないんです。だから今度返して下さいますか?」




その時、拓人くんの言葉が海辺に響き渡る。