冬の光にヴェールは要らない

お互いに海辺で遊んでいる拓人くんを見つめている。夕日は今度こそ本当に沈みかけていた。

「もう12月ですから。今朝も少しだけ雪が舞っていて驚きました」

夕日が沈むまでのタイムリミット付きの世間話。

その場限りの会話は、私が得意にしているものだ。

青年も先ほどまで泣いていた光景が嘘のように普通に話してくれる。
 
私は誰が聞かれても不快にならないような気温や天気の世間話を繋いでいく。

青年の涙の理由に触れるような馬鹿な真似はしない。

それが私に出来る唯一のこと。

本心を見せない代わりに、相手の本心にも踏み込まない。
 
しかし、急に青年が世間話の相槌をやめて、数秒の無言が走る。嫌な予感がする。