冬の光にヴェールは要らない

「えっと……偶然、拓人くんとぶつかって、『お兄ちゃんが海にいる』と教えてくれたので……」

「そうでしたか。ありがとうございます。このマフラーも貴方が?」

私たちの視線が一気に拓人くんの首元に集まる。

拓人くんがパッと顔を明るくして、マフラーを指差しながら説明してくれる。

「お姉ちゃんがねー、くれたんだよ! お姉ちゃんは冷たくないから大丈夫なんだって!」

その言葉に青年の視線がすぐに私の首元に移る。表情に焦りと申し訳なさが現れたのが分かった。

「すみません、ご迷惑をおかけしてしまって……マフラーは洗って、必ずお返しします」

「いえ……! 元々あげるつもりで拓人くんに渡したので……」

「そんなわけには。しかも、今も寒いでしょうし……」

海には遮るものもないので、冬の冷たい風が吹いている。

風も強くて、朝にセットした髪はもうぐちゃぐちゃだろう。