ようこそ、霞が関へ

「あぁ......田植えって、校庭のどこで?」
私の問いに、気象庁がペンをくるくる回しながらため息をついた。
「裏庭だよ。あそこだけ妙に土が()えてるからって、勝手に“農地”に指定してるんだ」
「それ学校の許可出てるの!?」
「知らん。環境省、お前の管轄じゃないのか?」
「私は環境であって、農業は農林……」
その時。
――ガラッ!!
勢いよく教室の扉が開き、全身泥まみれの農林が飛び込んできた。
「環境省――――――!!! 大変だよ!!」
「ひっ!?な、なにその顔……」
「苗、全部倒れた!!!」
教室が静まり返った。
財務省が眼鏡を押し上げ、ため息交じりに呟いた。
「……つまりこれは。補助金申請の案件ってことで?」
「補助金じゃない!!助けてほしいの!!......環境省なら土壌改良とか得意そうだし」
「いや、私だって自然のこと全部分かる訳じゃ……」
すると、文科省がゆっくりと顔を上げた。
隈を濃くした目で、意味深に眼鏡を押してくる。
「……苗が倒れた理由なら、分かるかもしれません……」
「え、本当!?」
「えぇ。原因は、ほぼ一つに絞れるでしょう」
文科省が立ち上がった瞬間、教室の空気がスッと緊張に包まれた。
そして次の一言が、みんなの背筋を凍らせる。
「――犯人は……この中にいます」
「いや何で推理小説みたいになるの!?」
思わずツッコミを入れる私。
だが、文科省は真剣だった。
「農林。苗がどの方向に倒れていたか、覚えていますか?」
「え?あー……全部、南向き……かな?」
「ふむ......」
文科省が軽く教卓を叩く。宮内庁さんの扇子とは違い威厳はゼロだが、それはそれで不気味。
「南からの強風。つまり……誰かが気象を操作した可能性が高い」
その言葉に、全員がゆっくりと教室の一角へ視線を向けた。
そこには――頬杖をつきながら推理を聞いていた気象庁。
「……え?何でこっち見るの?」
「いや、お前以外いないだろ!?」
「いやいや、俺は今日何もしてないってば!風は自然発生だし!」
しかし財務省は腕を組み、うんうんと頷いている。
「自然発生した風がちょうど田んぼだけ狙い撃ち。まぁ、予算を削る理由としては十分すぎる……」
「「だから予算削るなっての!!」」
農林と気象庁が同時に叫ぶ。
「全く!財務省は隙あらば予算削るんだから......」
「でも、前にお小遣いちょうだいて言ったら「はした金ですが......」って言いながら札束取り出したよ」
「さすが悪魔の貯金箱!!」
私の叫びに、財務省は扇子を持つ宮内庁さんの横で、ふん、と鼻で笑った。
「失礼だな!健全な財政運営を――」
「――言い訳にして何でも削る財務省の間違いだろ」
気象庁が即ツッコミを入れる。
「健全って何だっけ?」
「……まぁ、大蔵省がいくら悪魔でも、今回の犯行とは無関係でしょう」
「事件扱いなのは変わってないんだ……」
私は小声で宮内庁さんにツッコミを入れた。
そこへ、ひょこっと文化省がノートを抱えて近づく。
「南風の強さ、どれくらいだった?木が揺れるとか、風圧で音がしたとか」
「んー……何かバッサァァァ!!って、変な音してたな」
「そうだっけ?」
文科省がため息をつく。
「風が吹くとき、“バッサァァァ!!”って音、普通しないでしょ?」
「「「「あ......」」」」
そして――現場の畑に向かった。
窓の外。
裏庭で。
巨大なうちわみたいな植物の葉を全力で振り回しながら、防衛省が叫んでいる。
「防衛省特殊訓練!! 風力追撃ゥゥゥ!!」
「犯人お前かぁぁぁぁ!!!!!」
「お、おま......俺の苗弁償しろぉぉぉっ!!」
泣き叫びながら防衛省の首根っこを掴んで揺さぶる。
「ご、ごめん!! 苗は倒したが!倒したが!!悪気はないんじゃ!!」
防衛省はぶんぶん振り回されながら悲鳴を上げる。
「悪気しかない訓練だっただろ!!どこが“特殊訓練”なんだよ!!」
気象庁が叫ぶ。
防衛省は涙目で反論した。
「ち、違うんじゃ!敵のミサイルから自衛のために風圧を計算して……その……葉っぱが一番いい具合に……」
「理由がアホすぎる!!」
全員の即ツッコミ。
そこへ――
「――皆さん。騒がしいですね」
背後から静かな声が落ちてきた。
振り返れば、宮内庁さんが、扇子をゆるりと閉じながら立っていた。
その微笑みは柔らかいのに……背後に“何か巨大な気配”を感じる。
防衛省の動きがピタッと止まる。
「悪気がなくて許されるなら、そもそも警察()はいらねぇんだよ」
「はい、すみません」
宮内庁さんに乗っかり、警視庁が仁王立ちで立っている。その姿は金剛力士像(こんごうりきしぞう)のような威圧感だった。
「……防衛省。裏庭を勝手に演習場にする行為は、校則違反ですよ?」
「け、けど!これは国家安全保障のための――」
「言い訳はよろしい!校則違反です」
「はい……」
宮内庁さんが防衛省を叱咤(しった)した。
「農林。倒れた苗は……私の方から後で神様に頼んでおきましょう。豊穣(ほうじょう)祈願ぐらいならできますから」
「え、宮内庁さん神頼みできんの!?」
「できますよ。仕事ですので」
さすが皇室関連を扱う宮内庁さん、スケールが違う......!
すかさず財務省がひょっこり顔を出す。
「祈願料は経費で落とせますかね?」
「「落とせるか!!」」
農林と気象庁がまた叫んだ。