【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜

 ꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖


 王国随一の美しき城、グランフェリシア王宮。
 東西南北の四つの居住棟には、それぞれ国王陛下とその寵妃たち、第一王子一家、第二王子一家といったロイヤルファミリーが居を構える。

 第二王子一家が住まう北の棟。
 その一角にあるアドニス殿下の居室には、真夜中にもかかわらず煌々と灯りがともっていた。

「アドニス様。そろそろお休みになりませんと、お身体に障ります」

 壮年の侍従に声をかけられ、机に向かって書き物をしていた少年が顔を上げた。

 リボンで結わえて右肩に流した柔らかな金髪。
 宝石のようにきらめく蒼い双眸に高い鼻、引き結ばれた形のいい唇。それらが位置・大きさともに完璧に配置された端整な顔立ちは、まるで天井画に描かれた天使のごとく美しい。

 齢六歳にして、すれ違う令嬢たちを虜にする、まごうことなき美少年。
 アドニス本人もそんな己の美貌に自信を持っている。
 だが同時に『顔しか取り柄がない』と一部で噂されていることに気を揉んでいた。

 ゆえに今月末、父である第二王子スチュアート主催のパーティで、完璧なお披露目の演説をしなければいけない。

「演説の原稿を見直したら寝るよ」

「パーティまでまだお日にちがあります。あまり根を詰めずとも……」

「もっとよくするために原稿も修正しないといけないし、演説の練習も少なすぎる。……失敗して、父上の顔に泥を塗るわけにはいかないんだ。いくら時間があったって足りないよ」

「アドニス様……」

 一部の家臣からは、お披露目にはまだ早いのではとの声も上がった。

 実際、歴代王族が社交の場に出たのは十歳前後。
 六歳のアドニスには時期尚早という意見が出るのも当然だ。

 しかしながら、第一王子のひとり息子──アドニスにとっては二歳年上の従兄弟・ヴォルフラムは、六歳でお披露目の演説を成功させた。

 怠惰で、面倒事を弟に押しつけてばかりの第一王子とは打って変わり、その息子のヴォルフラムは神童と名高い。
 一部から『顔だけ』と揶揄されているアドニスとは違って……。

(──負けられない)

 同年代の王族として、ずっと比較されて生きてきた。
 劣等感とライバル心を抱くなというのは無理な話である。

「最後にスピーチの練習をしたい。つきあってくれないか?」

「もちろんでございます」

 アドニスは立ち上がり、ひとつ深呼吸をしてから、数多の貴族が目の前にいる光景を想像しながら話しはじめる。

 声変わり前の中性的な声色は、張り上げると耳障りになりやすい。
 そのため適度な落ち着きを保ちつつ、それでいて聞き取りやすいよう力強く明瞭に。
 抑揚をつけ、時折身振り手振りを交えてスピーチを続ける。

 努力の滲むその姿に、侍従は感心した様子で何度も頷く。

 しかし、締めの言葉に差しかかった、その時。
 アドニスはぴたりと演説をやめた。

 両目を見開き硬直したかと思えば、次の瞬間には両手で耳を押さえ、なにかに怯えるように身体を震わせる。

 常軌を逸した様子に、侍従はすかさずアドニスのもとへ駆け寄った。

「アドニス様! 大丈夫ですか⁉」

「…………さい……」

「アドニス様? なんとおっしゃったのです?」

「うるさい! 消えろッ!」

 キンッと甲高い声が室内にこだまする。

 ハッとアドニスが我に返った時には、すでに遅かった。

「……かしこまりました。失礼いたします」

「違う、違うんだ! 今の言葉は……」

 侍従はうつむいて部屋を出ていった。

 ぱたんと閉ざされた扉を見つめ、それからアドニスはこみ上げてくる涙を必死にこらえ、うなだれる。

「……違う。今の言葉は、〝あいつら〟に言っただけで、お前に向けたわけじゃなかったんだ……すまない……」

 今さら謝っても遅い。
 いつもそうだ。
 アドニスの言動は悪い方にばかり捉えられ、味方がどんどん減っていく。

 あの侍従も、今頃こう思っているに違いない。
 癇癪持ちの気難しい王族だ、と。

「どうしていつも……こうなるんだろう……」

 これではお披露目の演説どころではない。
 いくら練習しても失敗するに決まっている。

 呪いだ。
 自分はきっと、なにかに呪われているんだ。


「……助けて。誰か……助けて……」


 救いを求める声は真夜中の静寂に溶け、誰の耳にも届かない。

 ──彼が、彼女と出会うまで。



 人ならざるものが見える転生幼魔女と、美しきわけあり王族。
 ふたりの運命は近い将来、王都で交錯する。

                               (第一部 完)



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