出がらし姫と蔑まれてきましたが、身代わりの嫁ぎ先で氷の帝王に溺愛されています。

――フロスト帝国までは馬車で一週間。国境に近付くにつれて、気温が下がっていくのが肌でわかった。

数日前までは野の花が咲いていた馬車道の両側の草原が、次第に枯れた草しかない荒涼とした様相になっていく。

護衛騎士たちも気付いたのだろう。窓から震え上がった声が聞こえてきた。

「おい、まだエオストレ王国領土だぞ。春の女神の加護があるはずなのに」

「冬の男神の力ってどれだけ強いんだよ。フロスト帝国の場合は加護っていうより呪いだな……」

「いくら最強国でもフロスト帝国には行きたくないよな。一年のほとんどが雪に閉ざされているんだろ?」

更に道を進み、国境沿いのフロスト帝国の砦の前に到着すると、護衛騎士たちは一斉に空を見上げて絶句した。ラーラもだ。

天候が国境線上で綺麗に二分している。

エオストレ王国側の空は曇ってはいるものの、天気が悪く肌寒いくらいだ。

ところが、フロスト帝国側の空は全体が雲に閉ざされ、大雪が降り続けているだけではない。横殴りの嵐が吹き荒んでいたからだ。大地も氷と雪で覆われ、緑など望むべくもない。

これが冬の男神の支配する氷の帝国なのか――。

護衛騎士とラーラが絶句している間に、砦からフロスト帝国側の騎士たちがぞろぞろと現れた。

全員、銀の鎧と白いマントを身に纏っている。うち一人の身分の高そうな騎士が、馬車の前に進み出て恭しく扉を開けた。白髪に真紅の瞳の三十代半ばほどの、落ち着いた雰囲気の男性だった。

フロスト帝国では白髪や銀髪、プラチナブロンドなどの薄い髪色が多いそうだ。瞳の色は大体赤系か青系に二分されるとも聞いていた。