「なぜ……」
敵国に嫁ぐ娘を見送らない王族など、いくらなんでも前代未聞だ。しかし、それが「クラウディアのため」だと通用してしまう。
「今日ハインリヒ様をお招きして、お茶会をするって言ったら、こちらに来たいと言ったのよ」
ハインリヒとは大貴族の公爵家の令息だ。家柄も財産も王女が降嫁するのに相応しい。恐らく、クラウディアの婚約者候補なのだろう。
ラーラを嫁がせることで時間稼ぎをする間に、クラウディアもハインリヒと結婚させ、既成事実を作るつもりなのだろう。皇帝に「望んだ王女はラーラではない。クラウディアを寄越せ」と言わせないためか。
いずれにせよ、両親と兄はクラウディアだけは手放したくない。だが、自分なら喜んで差し出せるのだと、ラーラは改めて思い知ったのだった。
しかし、覚悟はできている。エオストレ王国の王女として、国を守るために嫁ぐのだと。
(無慈悲で冷酷な氷の帝王と呼ばれる皇帝陛下……。でも、結局私は人伝の話しか知らないわ。だったら、安易に判断してはいけない。実際にお会いしてみるまで、どんな方かなんてわからないもの)
決まりきった運命だろうと、前を向いて歩いていきたかった。
だから、胸が痛みはしたものの、クラウディアの嫌味には「そうですか。お父様とお母様、お兄様によろしくお伝えください」とだけ応えた。
クラウディアが白けたような顔になる。ラーラがいつものように傷付き、ぐっと悲しみを堪えるのを期待していたのだろう。
それにしても、ラーラはクラウディアが意地悪な理由が、まったく理解できずに首を傾げた。家族の愛情も、美しさも、異能も、すべてを手にしているのに、それでもなぜ満足せずに自分を攻撃しようとするのか。
ラーラの戸惑いを動揺と勘違いしたのか、クラウディアがラーラのドレスを見て薄く嗤う。
「豪華な喪服ね。ありがとう。私の代わりに死んでくれるって言ってくれて」
つまり、ラーラは氷の帝王の怒りを買い、虐げられるに違いないと考えているのだろう。所詮身代わりの出がらし姫なのだからと。
クラウディアはくるりと身を翻した。
「それに、出がらしだって最後くらいは綺麗な服を着たいものね」
くすくす嗤っているのが聞こえた。
敵国に嫁ぐ娘を見送らない王族など、いくらなんでも前代未聞だ。しかし、それが「クラウディアのため」だと通用してしまう。
「今日ハインリヒ様をお招きして、お茶会をするって言ったら、こちらに来たいと言ったのよ」
ハインリヒとは大貴族の公爵家の令息だ。家柄も財産も王女が降嫁するのに相応しい。恐らく、クラウディアの婚約者候補なのだろう。
ラーラを嫁がせることで時間稼ぎをする間に、クラウディアもハインリヒと結婚させ、既成事実を作るつもりなのだろう。皇帝に「望んだ王女はラーラではない。クラウディアを寄越せ」と言わせないためか。
いずれにせよ、両親と兄はクラウディアだけは手放したくない。だが、自分なら喜んで差し出せるのだと、ラーラは改めて思い知ったのだった。
しかし、覚悟はできている。エオストレ王国の王女として、国を守るために嫁ぐのだと。
(無慈悲で冷酷な氷の帝王と呼ばれる皇帝陛下……。でも、結局私は人伝の話しか知らないわ。だったら、安易に判断してはいけない。実際にお会いしてみるまで、どんな方かなんてわからないもの)
決まりきった運命だろうと、前を向いて歩いていきたかった。
だから、胸が痛みはしたものの、クラウディアの嫌味には「そうですか。お父様とお母様、お兄様によろしくお伝えください」とだけ応えた。
クラウディアが白けたような顔になる。ラーラがいつものように傷付き、ぐっと悲しみを堪えるのを期待していたのだろう。
それにしても、ラーラはクラウディアが意地悪な理由が、まったく理解できずに首を傾げた。家族の愛情も、美しさも、異能も、すべてを手にしているのに、それでもなぜ満足せずに自分を攻撃しようとするのか。
ラーラの戸惑いを動揺と勘違いしたのか、クラウディアがラーラのドレスを見て薄く嗤う。
「豪華な喪服ね。ありがとう。私の代わりに死んでくれるって言ってくれて」
つまり、ラーラは氷の帝王の怒りを買い、虐げられるに違いないと考えているのだろう。所詮身代わりの出がらし姫なのだからと。
クラウディアはくるりと身を翻した。
「それに、出がらしだって最後くらいは綺麗な服を着たいものね」
くすくす嗤っているのが聞こえた。

