フロスト帝国皇帝イザークは、一刻も早い輿入れを望んでいるのだそうだ。皇室の習慣に則って式は新年に挙げることになるが、籍は今年の内に入れておきたいのだと。

そうした一方的だが断れない理由で、ラーラはそれから一週間後にはもう、フロスト帝国に旅立つことになった。

今までラーラの持ち物はすべて、クラウディアより数ランク劣るもの、もしくはクラウディアが飽きたものだった。表向けの理由は長女であるクラウディアは、第二王女であるラーラより地位が高いとされていたからだが、実際にはクラウディアの機嫌を取るためだった。

クラウディアはラーラが自分よりよいもの、もしくは自分より多く持っていると、たちまち機嫌が悪くなる。自分が一番でなければ気が済まないのだ。

両親も兄も春の女神を思わせる、美しいクラウディアにはいつも笑っていてほしい。だから、ラーラに我慢させると言う構図になっていた。

しかし、今回のラーラの結婚は、大帝国となりつつあるフロストへの輿入れである。粗末な嫁入り道具では皇帝を怒らせてしまう可能性もある。再び侵略されてしまっては元も子もない。

そのために、今回のラーラが乗る馬車も、旅装束のドレスも、護衛騎士たちの装備も、今までに無く豪奢なものになっていた。

――エオストレ王国を発つその日、最後の旅支度で忙しいラーラの部屋に、なぜかクラウディアがやって来た。

「お姉様、どうなさったのですか」

「最後に会いにきてあげたのよ。ああ、そうそう。お兄様とお母様は見送りにこれないみたい」