イザークが指摘したとおりエオストレ王家には、始祖である春の女神と同じ力を持つ王女が生まれることがある。不毛の大智に生命力を与えて活性化させ、植物の生長を促す希有な異能だ。

ラーラにはその異能がないわけではなかったが、説明したようにごく弱いものだった。

途端に国王の顔色が怒りに染まる。

「では、お前はクラウディアを差し出せというのか? なんと恐ろしいことを言うのだ」

ラーラの一歳上の姉姫クラウディアにも春の女神の力がある。しかも、ラーラよりずっと強い。彼女が歩くだけで、土のある場所にはたちまち緑が生い茂り、色とりどりの花が咲く。

更にクラウディアは絶世の美少女で、「エオストレ王国の女神」と名高かった。朝日を紡いだような波打つ金髪に、宝石を思わせるサファイアブルーの瞳。声は甘く高く澄んで鈴の音を思わせる。

一方、ラーラの容姿は地味なものだった。父方の祖母に似た茶色の髪にぱっとしないハシバミ色の瞳。顔立ちは整ってはいるものの、大人しい雰囲気のせいかいまいちぱっとしない。

そんなラーラにつけられたあだ名が「出がらし姫」だった。姉姫に美貌も異能もすべて吸い取られた、取り柄のない哀れな王女だと。

一体誰がつけたのかはわからない。しかし、ラーラの境遇にあまりにピッタリだったため、宮廷に出入りする貴族も皆影では「出がらし姫」と呼んでいた。

ラーラ自身も地味で無能だと自覚していた。

だからこそせめて努力だけは認められたいと、幼い頃から勉強に、成長してからは公務に励んだ。社交と遊びに忙しい母とクラウディアの公務も肩代わりしてきたのだ。

なのに――。