フロスト帝国が夏の国と秋の国を滅ぼしたのは、領土拡張のためだけではない。冬の男神の加護を受けるがゆえに抱える事情のためだ。

フロスト帝国は一年のほとんどが雪に閉ざされている。当然日照時間が短く作物も育ちにくい。

しかし、民を食わせるためには食糧が必要である。そのために、夏の国と秋の国から長年作物を輸入し続けていた。

それだけでは人口の増加に対応しきれず、戦に踏み切ったということなのだろう。

ところが、フロスト帝国が支配下に置いた夏の国と秋の国の領土は、女神たちの加護を失ったのか、あるいは男神の力が強すぎたのか、支配下に入るなり瞬く間に凍り付いてしまったらしい。侵略は無駄骨だったということになる。

これはかつて夏の国と秋の国の王族を皆殺しにしたせいで、夏と秋の女神たちの怒りを買ったに違いない――ほんの一年前即位した若き新皇帝イザークはそう感じ、父帝の時代まで侵略一辺倒だったやり方を変えることにした。

春の国エオストレ王国は侵略しない。代わりに、春の女神の異能を持つ王女を嫁がせろと。そうした王女の血を取り込めば、フロスト帝国にも春が訪れるのでは……と期待しているのだろう。

ラーラはおずおずと口を開いた。

「お父様、発言してもよろしいでしょうか」

「許可する」

「では、私では力不足なのではないでしょうか。私は……花の種を芽吹かせることくらいしかできません。もっと他に相応しい方が……」